「貴方だけの音を」:3 ページ24
私は目の前に広がる光景に、文字通り目を疑った。
ステージの上、マイクスタンドの前に凛々しい顔立ちで立っていたのは。
____加賀美ハヤトさん、だったから。
見間違えるはずがない。側で、何度も見てきた顔だ。
しかもその後ろには、緑仙さんや夢追さんはもちろんドラムやキーボード、ギターなどの楽器を前に五人の男女が立っていた。
彼はブレザーを脱いで、制服の白シャツの袖を肘まで捲り上げて、ラフな格好で立っていた。
ステージの上にいきなり友人が出てきたことに驚いた私はもちろん、それは周囲も同じで。
「えっ…あれって生徒会長だよね!?なんでギター持ってんの?」
「なんかいつもと雰囲気違うよね…壮観っていうか」
「てかあの後ろの人、よく授業サボってる仙河と軽音部員じゃね?なんかかっこいいかも…」
ざわざわと観客に困惑と興奮の輪が広がっていく。その中で、不思議と私の脳みそは冷静なままだった。
ハヤトさんが肩から下げていた黒いギターは、放課後私の前で毎日のように弾いていたギターだった。いつもより綺麗に見えるのは、きっとこの日の為に磨いたのだろう。
マイクを握り締めて、じっとステージの上から観客を見下ろす彼の視界には…何が映っているのだろうか。
ふと右手に紙の感触があり、見てみるとそれはハヤトさんが私にくれたあのチケットだった。
____私に見てほしいもの。
やっと理解できた。
彼は私に、自分の晴れ舞台を___ライブステージに立つ姿を、記憶に焼き付けてほしかったのだ。
それはきっと、彼が私に向けて送る最大で最高のサプライズで___想いを伝える手段。
チケットから顔を上げ、ステージに視線を戻す。
空間が薄暗いスポットライトの明かりに包まれた。
彼はマイクを握り締めて___歌い出すほんの数秒前、私の方に視線を向けて一瞬目を合わせた。
その眼は、いつものハヤトさんの眼ではなかった。じっと瞳孔を縦に細め、獲物を定めて心を射抜く肉食獣そのもの。
今までそんな顔見たことない、と感じて私の胸はどきりと跳ねた。それは恋なのか驚きなのか、分からない。
すぅ、と短く息を吸って___彼は自分の喉を震わせて、はっきりと確かに歌い出す。
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こみ - 私もこの1年間高2A組だったのですごく嬉しかったです!幸せでした! (2021年4月4日 15時) (レス) id: a0adc0f2be (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - ばちぅ兼もてゃさん» こんにちは。コメント、そして読了ありがとうございます!続編の方は別のお話と同時進行の予定ですので、もうしばらくお待ちください。 (2020年6月20日 18時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
ばちぅ兼もてゃ - こんにちは...ばちぅ兼もてゃです...最初から最後まで全部読んでました、執筆お疲れ様でした!続編も楽しみにしてますね、もちろん読みます (2020年6月20日 18時) (レス) id: 603073c1b4 (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 蒼渇さん» 蒼渇さん、コメントありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。よければこれからもお付き合い頂ければ励みになります。 (2020年6月2日 14時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
蒼渇(プロフ) - ひぇ…めちゃくちゃキュンって来ました…好きです!!!!!!!無理せず更新頑張って下さい! (2020年6月2日 10時) (レス) id: c685f96854 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:伊織 | 作成日時:2020年5月30日 14時