短編集【ｲﾅｲﾚ・ｲﾅｺﾞ】4 (ページ10)

今日:5 hit、昨日:1 hit、合計:5,533 hit

サルフェイページ10

「ねえ、SARU…僕怖いよ、」

彼の零した大粒の涙が、僕の頬に落ちる。最近は体力の低下も著しく、ずっと寝たきり状態になっている僕を甲斐甲斐しく世話してくれているのは、ずっと大好きだったフェイ。

「…泣かないで、フェイ、」

「…っ、君も、僕を置いてどこかに行ってしまうの、？」

泣きじゃくるその姿は、20歳を目前とした男の顔ではなく、幼い少年そのものであった。こんな彼を見たのは、何年前ぶりであろう。

「フェイ…僕は君を置いては行かないよ」

「うう…っ、ほんとう…？」

「ああ、本当さ」

数年前、ラグナロク戦で見事勝利をもぎ取ったフェーダは、今や人類の頂点に立つ存在となった。そして、それに恐れたセントエルダに住んでいたものたちは皆、郊外へと逃げていった。そんなことしても無駄なのに、全くこれだから下等な人間たちは面白い。

おじさんたちは最後まで僕たちに力を手放すように説得してきたが、納得するものはいなかった。

ただ一人を除いて。

フェイだけは、手放しても良いと言っていた。彼は天馬たちと過ごした時間の中で、もっと長く生きていたいと思ったらしい。だけど、寿命のためにこの素晴らしい能力を手放すなんて馬鹿げている。そう思って、手放したいものだけ手放す、と決断を下した。

結局、フェイはこの能力を手放すことを選択した。

本来ならば、能力を手放したものをフェーダには置いておけない。だけど、フェイは自分にとっては特別な存在で、ずっと一緒にいたいと願った相手だ。だから、匿うように側近として、僕の傍にいることを命令した。フェイはそのことを受け入れてくれたが、フェーダの中には、それに反対するものももちろんいた。だけど、僕が全てのこの世界。そんな者たちは、僕の能力で全て捻り潰した。その度に、フェイはなんとも言い難い顔をしていたが、何も言ってはこなかった。

「…僕、君ともっと一緒に生きたかったから、能力を手放したのに…っ、君も一緒じゃなきゃ…ッ、寿命なんて選ぶんじゃなかった…ッ」

「フェイ、君の選択は間違いではないと思うよ、今となってはね」

もうあまり力の入らない腕をなんとか持ち上げて、彼の頬に手を這わせる。そして溢れだす涙を指で掬うと、彼の綺麗な緑色の瞳が見える。

もう、この世界に残っているのは僕と君だけだ。同じ能力を持ったものたちは皆先に旅立ってしまった。

▹next.