中也の想い ページ33
「其れに、俺は好きだって気持ちに嘘付ける程器用じゃ無ェんだよ!」
──手前と違ってな。
俺は重力操作を使ってAを抱え上げるとバーの出口へと走り、階段を駆け上がる。
残り二段となった処で俺は誰かに押された。
そのまま俺は階段下まで落ちてしまった。
不覚。焦りは禁物だって云うのに、焦って視野が狭まった結果だ。
階段の落とされた所を見ると、其所には一人の女が居た。
「シャン……」
「ふふ、私はパンダさんだよ。Aちゃん」
ウィンクをバチコッと決めたのは、白と黒の服を着た女。
Aに云わせると『パンダさん』だ。
上半身の白いセーターは腹辺りが赤く染まっている。
「手前…血」
「嗚呼これ?血糊だよ。中也」
「如何云う事だ」
「中也を試してAちゃんを騙した。
キミはAちゃんを捨てたんだよ?」
シャンはそう云って殺気を出した。
何だこれ。Aに対する…強い気持ち。
姐さんが弟子を大事にするみたいな…
「其れが、Aの為に成るって手前が云ったんじゃ無ェのか!」
だから、Aに嫌われようと、一ヶ月で忘れて貰おうと…Aが哀しまない様に。
そう、あの手紙と俺が姿を消したのはシャンの案だ。
「キミはAの事、なーんにも分かってないね。
やっぱりキミにAを上げるのは惜しい」
「っ!」
此奴、Aの何なんだ。
階段にはシャン。下には太宰。
八方塞がりだ。
「やぁやぁシャンさん。Aちゃんの前で喧嘩はよし給え。直に起きて仕舞うよ」
「済みません」
「さぁ、Aちゃんが起きる前に、三人で呑もう。二人に云いたい事が有るのだよ」
太宰はそう云ってニヤリと笑った。
「えぇ、分かりました」
俺は無言で太宰の座った場所より一つ離れた椅子に座った。
その途端、頭を鈍器か何かで殴られた。
目を見開いて後ろを振り返ると、シャンがビンを片手に狂気に満ちた笑顔を浮かべていた。
「く…そ……」
意識が飛ぶ直前、Aが目に入った。
「中也っ!」
目を見開いて俺を見ている。
こんなみっともない最後、Aに見せられない。
そう思っていたのに、
最後は声が出たのか判らない。
消え行く意識の狭間で俺はAの名を叫んだ。
俺に、Aの名を呼ぶ資格なんて無いと思いながら。
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爽斗 - せれな さん» 本当ですか!!ありがとうございます!!頑張ります!! (2021年8月27日 22時) (レス) id: 5b5562e114 (このIDを非表示/違反報告)
せれな - 本当に面白いです これからも応援しています! (2021年8月25日 20時) (レス) id: 6fed7b85b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:爽斗 | 作成日時:2021年7月15日 2時