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密会 ページ31

目の前には木でできた重そうな扉。


右斜め上には『グラディウス』と書かれた看板。



全体的に古びた印象だ。


「大丈夫…」

と呟いて、拳をギュッと握る。


お姉ちゃんのお陰でここへ辿り着けた。

もしかしたらお姉ちゃん、応援してくれてたりするのかな…?


そう思うと急に気が軽くなった。


大丈夫、行ける。


中也に会える。


──コンコン


気持ち程度にノックをして扉を開ける。


ギィーと云う音がして、中からツンと鼻を突く酒のにおいがした。


階段が下に向かって真っ直ぐに伸びていた。


「行くしか、無いよね」


一段ずつ、慎重に降りて行く。

残り二段。となった時、死角から声が聞こえてきた。

わたしは足を止めて音を漏らさない様に手で口を塞ぐ。


「マスター悪いね」


太宰さんの声だ。


「否、此処は元々恋人達の密会の場です故に」



中也は、居ないのだろうか。


声も中也の雰囲気も感じない。


何にせよ、後二段降りれば分かること。


わたしが階段を降りると、そこはバーだった。


カウンターには太宰が座っており、向かいには白髪にシワのある顔をしたおじさんがグラスを磨いていた。


グラジオラスで恋人達の密会の場なんて、
ロマンティックな事を思い付くおじさんだ。


否、太宰とわたしは恋人ではないけども!


「やぁ、Aちゃん」


わたしが太宰に歩み寄ると太宰が手を上げてにこやかな笑みを浮かべた。


「こんにちは」

太宰は自身の隣の椅子を引いてくれたが、わたしはそれには座らず一つ分離れた場所に座った。

「酷いなぁ」

「太宰さん、中也君は?」


出来るだけ感情を込めず、抑揚の無いように。


「嗚呼、中也ね


中也は居ないよ」


わたしを見てそう言い放ち、ニコリと笑って見せた太宰。


「……約束が、違います」


辛うじてわたしはそう云った。

目の前に琥珀色の液体の入ったグラスが置かれた。


「じゃあ、こうしよう。遊戯だ」

「…わたしが勝ったら?」

「君の云うことを一つ、何でも聞こう」

わたしはゴクリと大きく一口酒を煽った。

「乗ります」

焼けるように痛む喉の感じを初めて心地好いと思った。


太宰は満足そうに笑った。


「君が負けた時の事は聞かなくていいのかい?」

「負けませんので」

一口で一瞬で酔いが回ってきたわたしは勢いでそう答えた。

「いい答えだ」


太宰が嗤った。

──バタン

「しかし君はもう、負けている」

その太宰の呟きはわたしには聞こえなかった。

登場→←変化と感謝



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設定タグ:文スト , 中原中也 , 文豪ストレイドッグス   
作品ジャンル:恋愛
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爽斗 - せれな さん» 本当ですか!!ありがとうございます!!頑張ります!! (2021年8月27日 22時) (レス) id: 5b5562e114 (このIDを非表示/違反報告)
せれな - 本当に面白いです これからも応援しています! (2021年8月25日 20時) (レス) id: 6fed7b85b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:爽斗 | 作成日時:2021年7月15日 2時

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