イントロ。

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周りには、誰もおらん。

俺らだけの、特等席。


「海側の部屋は、結局、取られへんかってん。
ごめんな」


「いいよ、そんなの。
こんなに綺麗な夕暮れが見れたんだから」


「ハワイのビーチに匹敵する？」


「それはどうかな」


「こいつ。
嘘でもそこは、うん言うとけや」


Aの左手をさっと取って、
預かったまんまやった結婚指輪を、はめる。

やっぱり、ちょっと痩せたんかな。

指輪は昔より緩くて、
すんなり入った。


「亮・・・」


「この指輪はAのや。
Aは俺の嫁さん。
そんで、ここはハワイのビーチ。
やろ？」


「そういうことにしといてあげる」


生意気なAをお姫様みたいに抱き上げて。
くるくる回す。


結婚式の日、砂浜でこうやってしろて、
カメラマンに言われたん、不意に思い出してん。


あん時は、そんな小っ恥ずかしい事、出来るか！

思たくせにな。


「亮、ちょっと、恥ずかしいって」


「A、痩せたんちゃうか？
昔は苦労したのに、軽々抱き上げれたで」


「昔は苦労したは、余分でしょ」


「ほんまやもん。
こやって、くるくる回せて、
あんカメラマンが、無理難題言うてきたやろ？
俺、腕、千切れるか、思たわ」


「もう！うるさい！」


冗談言うてるけど、
心配でたまらんなってきた。

めっちゃ軽いし、
身体も薄い。


Aを抱き上げたまんまで、
見つめ合う。

ちゅ、って、
啄ばむように、短いキスした。


砂浜に下ろして、

今度はゆっくりと、
甘くて長いの。


もっともっと、続きが欲しくなる。


さすがに、こんなとこであかんけど・・・


夜は、期待してもええんかな。


仲直りしてからも、夜は、音沙汰なしのまんまやねん。


A、忙しいて、いつも疲れてそうやし、
クマの子、たあ君の絵本読んでやったら、

すぐ寝てまうし。

どうやって、再開？するもんやら、

一旦、遠のくと、
誘うんも、めっさ勇気いるっつうか、

恥ずかしいて、たまらんねんな。



俺がそんな不埒な事を考えてるなんて、
Aは、気付いてるわけもなく。


「亮、そろそろご飯食べにホテルに戻ろうよ。
楽しみだな。久しぶりのフレンチ」


夕陽の中を、歩き出す。

小さい背中を追いかけて。

その手を取った。


さりげなく、指、絡めたつもりやってんけど・・・

何気に緊張してんの、
バレてるみたいや。

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