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「………推しをな…？」
小島「うん？」
「…推しを、好きになってもうたかもしれん」
ごく小さな声で溢した言葉に、小島は怪訝そうな顔で首を傾げる。
私は(友達なんやったら察してくれ)なんて思いながら、下唇を噛んだ。
「長尾くんのことな、もともと好きやってんけど…今までの好きは……なんていうか、私だけ好きで良かったっていうか、私の気持ちしか、そこにはなかったんよ。
でもなんか…ちゃんと長尾くんと喋ってみたら、長尾くんは私のことどう思ってんねやろ、とか…気になり出してもうて。
それって、推しの好きとはちゃうと思うねん。推しの好きとちゃうって思ったら、長尾くんの言葉の一個一個に悩んだり嬉しくなったりすんねん。
……だから、昨日は泥みたいな顔しとって、今日はバカみたいに浮かれてるように、見えたんちゃう…？」
いつのまにか誰もいなくなった教室で、ありのままの正直な言葉がぽろぽろとあふれていく。
そんな私のテンポの悪い独白を、ずっと小島は少し困ったような笑顔で聞いていた。
小島「……よかった」
「…なにが？」
小島「Aの悩んでることが、嫌なことじゃなくて」
「……どういう意味？」
そう尋ねると、小島は照れたように頭を掻いた。
頭一個分高いところにある視線は、教室の天井を少し泳いで、私の視線とぶつかる。
小島「……心配しててん。お前がなんか嫌なことされてんちゃうかとか、そんなことで悩んでんちゃうかって。
でも、それならよかった。恋煩いってヤツやろ？」
「わざわざ恥ずかしい言い方せんといて」
小島「恥ずかしくないやろ！恋煩い、めでたいやん！」
「恥ずかしいって！」
小島は笑って軽口を叩いて、それから小さく溜め息をついた。
小島「やっぱしAはそういう顔してた方がええな」
そう言った小島の声は、いつもより少し小さい。
急になんやねんとそう尋ねたかったのに、その言葉は「見回り行くで」と歩き出した小島の声に遮られた。
私の一歩前を歩く小島の背中を、私も小走りで追いかける。
横に並ぶと、小島はいつもみたいに少し困ったように私に微笑んだ。
小島「長尾くんと、上手くいくとええな」
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年9月24日 18時
