初心な僕らは恋を知らない (ページ38)

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長尾side

長尾「青になっても渡らんといて。
そのまま、俺の話聞いて」

俺がそう言うと、電話越しにAさんは「わかった」と小さな声を返した。

こじけんから連絡が来たことに意味がないわけなんかない。

意気地無しの俺に発破をかけてくれたのと、
たぶんこじけんも——俺と同じ気持ちなんやって、意気地無しの俺でも分かる。

好きな人に好きだと伝えるのが、俺は怖くなってしまったけど、そのままじゃあかんことも分かる。

このままじゃ、俺は格好悪いままや。

長尾「俺な、Aさんのこと好きやけど、Aさんが幸せになってくれるんやったら、その相手は俺じゃなくてもええかなって思ってた」

Aさんからの返事はない。
ただ、携帯を当てた右耳には、左耳から聴こえるのと同じ車のエンジン音が聴こえてくる。

反対側の赤信号の下でAさんは、少し俯いて、ただそこに立っていた。

長尾「だって……こじけんっていいヤツやから。好きになるのだって分かるし、もしAさんがこじけんの彼女になるんやとしても、それを止める権利は……俺にはないし、」

そう、そんな権利は俺にはない。
ないけど、伝える権利は俺にもある。

格好悪くても、想いを伝える権利は俺にだってある。

長尾「……でも、やっぱり俺はAさんが好きやから。俺じゃない誰かと、Aさんが幸せになるのが嫌なんじゃなくて……嫌なわけやないねん。
——ただ、俺やったらいいのにって、思う」

俺がそう言うと、電話越しにAさんが小さく息を吸う音が聴こえた。

信号は青に変わったけど、俺もAさんもそのまま歩き出したりはしなかった。