初心な僕らは恋を知らない (ページ31)

今日:3 hit、昨日:3 hit、合計:28,572 hit

3-13 ページ31

＊＊＊

それで、長尾くんとは会わないまま
なんだかんだ真面目に仕事して(仕事になると健ちゃんはコロッと真面目になる節がある)
Aぇ! groupの皆さんをお見送りして、残った仕事をこなしてから、さて私も帰ろうかと会社を出たところで、不意に声をかけられた。

それが誰かなんて、考えなくても分かる。
決して、呼び止められるのを待ってたわけじゃないけど。

小島「A〜、今日は何食べたい？俺は中華」

「………健ちゃんさぁ、やっぱり暇なんでしょ」

小島「さっきまで一生懸命仕事してた人にそんなこと言う？」

「東京来るたび、毎晩ご飯誘ってくる人が暇じゃないと思いますか？」

小島「会いたい人のために予定空けとくのは暇やからちゃうってことぐらい、そろそろ分かってもらってもええと思いますけど」

「あーもう、はいはい。わかった、中華ね中華」

私がそう言うと、健ちゃんは「やしゃ〜い」なんてよく分からない喜び方をした。
「東京の店知らんから教えて」との言い訳に乗ってしまう私も私でどうかと思うけど、
まぁでも、健ちゃんは友達だし。

わざわざ私のために時間を空けておいてくれるのは、単純に嬉しいし。

近場なら気張らないで済むし。

「健ちゃんといるのはさ、なんか、楽でいいね」

小島「……どういう意味？」

「そのままの意味だよ。一緒にいて、楽」

本当はきっと忙しい健ちゃんが、わざわざ予定を空けておいてくれていても、カケラも申し訳ないなんて思わないし。

ちょっとぐらいは思った方がいいのかもしれないけど、でもまぁいっかってなる。
健ちゃんだし。

小島「Aがええなら、そのほうがええかぁ」

「ん？」

小島「あーいや、こっちの話」

健ちゃんはそう言って歩き出す。
「ほら行くで」と振り返る背丈は、私よりずっと高い。

“だから、長尾のこと
忘れんといてあげてください”

道枝くんに言われた一言をなんとなく思い出して、また少しだけ胸が痛んだ。