初心な僕らは恋を知らない (ページ22)

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長尾くんは、映画が好きだった。
私も映画が好きだから、よく二人で一日中映画を見たりしていた。

本当に一日中。
一日に5本の映画を見たときは、さすがにやりすぎだと思ったけど、でも楽しかったような気がする。

私は泣ける映画ですぐに泣いてしまうけど、長尾くんは意外と泣かない。
私が泣いてる隣で、長尾くんはこっちの涙が引っ込むほど真剣な顔をしていた。

一本の映画を見てアイドルを志した長尾くんにとって、きっと映画は色んな意味を持つんだろうなって、今になって思う。

長尾くんと別れてから、本当に
長尾くんについて、たくさんのことに気付いた。

近くにいるだけじゃ気付けない、いろんなことに。

メロウなエンディングを聴きながら、
ハンカチで目頭を抑えながら、
エンドロールを眺めながら、
そんなことを思った。

平日のレイトショーは、お客さんが少なくて好きなんだけど、それはこんなふうに人目を憚らずに泣けるからでもある。

いい映画だったなぁ、よかったなぁって、そんなことを思いながら、席を立った。

いい映画を見ると、誰かに話したくなる。
この気持ちを共有したくなる。

そして、私がこの気持ちを共有したい相手なんて、たった一人しかいないことに気付いて、少し悲しくなる。

だって、その相手に別れを告げたのは
私のほうなんだ。

そんなことを思いながら、トボトボと客席の間の階段を降りる。

ほとんどお客さんのいない映画館。

私以外のお客さんは、みんな出てしまったと思っていた。

長尾「——A、さん？」

誰もいないと思っていた、声のする方を振り返ると、キャップを目深に被った小柄な男の子がいた。

「……長尾くん？」