初心な僕らは恋を知らない (ページ23)

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長尾side

「感想喋りたかっただけだからね」

長尾「分かっとる」

「会ったのがたまたま長尾くんだっただけだからね」

長尾「分かったって」

「喋ったらすぐ帰るんだからね」

長尾「分かった分かった」

あと1時間で閉店するカフェで向かい合って座って、Aさんはキッと表情を強ばらせてる。

映画館で偶然、ほんまに偶然ばったり会ったAさんは、ちょっと会釈して通り過ぎようとした俺の腕を掴んで、
苦悶の表情って言っても過言じゃないような顔で「………お茶でも、飲んでいきませんか」と切り出した。

Aさんの気持ちは想像に難くない。

元カレで、しかも「まだあなたのことが好き」だと急に伝えられた相手なわけやし。

それでも、誰かと感想を共有したくなるぐらいいい映画やった。

ちょっと、心の端で嫉妬してまうぐらい。

長尾「Aさん、泣いてたな。鼻啜ってる音聞こえてきたで」

「やだ、恥ずかしい」

長尾「誰かめちゃくちゃ泣いてる人おるなぁって思った」

でも、これは大きな発見かもしれん。

俺としては、Aさんと会ったのが突然のことすぎて逃げたくなってもうただけやけど、
Aさんはそんな、逃げようとした俺の腕を掴んだ。

もしかしたら、“引いてダメなら押してみろ” ってやつが、Aさんには効くのかもしれん。

映画のアレが良かったコレが良かったと饒舌に語るAさんを見ながら、俺はそんなことを思っていた。