初心な僕らは恋を知らない (ページ35)

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「えっ？」

小島「出なくてええよ、今は俺と話してんねんから」

珍しく語気の強い健ちゃんは、視線も強くて言葉に詰まる。

携帯の画面に目を遣ると、表示された名前がまた私の網膜に焼きついた。

チカチカと頭の奥が痛くなる。

「……長尾、くん…からだから」

小島「やから出なくていいって言ってんの。
元カレなんやろ？」

健ちゃんは、見たことないような真剣な表情でそう言った。

それでも電話は鳴り止まない。
電話の先で長尾くんが待っていると思うと、申し訳なさで涙が出そうになる。

「ごめん、やっぱり電話出させて」

身勝手でごめん。
そう思いながら、財布から一万円札を抜き取ってテーブルに置くと、健ちゃんは小さく笑ってから「多いって」と呟いた。

ごめん、こんな私でごめんなさい。

どんなに謝ったって足りないけど、身勝手な私でごめんなさい。

荷物を抱えて店を飛び出すと、街はまだ道ゆく人で溢れていた。

そんな喧騒の中で、通話の文字をタップする。

息を整えてから携帯を耳に当てると、小さな
本当に小さな声が聴こえてきた。

長尾『——もしもし、Aさん？』

「ごめん、すぐ出られなくて」

長尾『ううん、大丈夫。いま大丈夫なん？』

大丈夫じゃない、本当は大丈夫じゃないけど、それを悟られないようになるべく平気な声で、私は答える。

「——大丈夫だよ、」

そう答えると、長尾くんがほっとしたように息をつくのを感じた。

長尾くんの方からも、街の喧騒が聞こえ漏れていて、向こうも外にいるのだと分かる。