MEMORY 【影山飛雄】

16. 重なる影と雨と熱 ページ17

…







　やっぱり今日は変だ。
　飛雄たちの姿を見てから




　不安定になる。









　いつもなら泣かないのに。
　昔の事なんか思い出さないのに。









　そっと温もりに包まれて。
　及川が静かに私の顔を
　自分の肩に埋めるようにしてくれて。





　ゆっくり背中を撫でてくれる。
　その感触が心地よくて



　余計に涙を誘った。







　「我慢しないで泣きなよ」









　それまで抑えていた声が
　抑えられなくなって声が漏れた。




　泣きじゃくる子供の様に
　私はただただ泣いた。




　親に抱き着く子供の様に
　及川の背に手をまわした。





　『ごめ…っ…』









　この恋が実らなくても
　別にいいと思った。


　心の奥底に潜ませておけばいいと思ったのに。








　限界を迎えるのが早かった。
　予想より遥かに早くて




　きっといつか飛雄が彼女とか連れてくるとき
　私は笑って迎え入れるなんて無理だ。








　私はそんなに強くない。









　無理だよ。








　「…ねぇ。
　 そんなにAを泣かしてるのは誰？

　 飛雄だろ？

　アイツなんか止めてさ、俺にしない？」


　『…え、…何でそ、れ知ってるの？』









　だから、この日は少し変だったんだ。
　あんなに晴れていたはずなのに
　いつの間にか大雨が降っていて







　変なんだ。
　この胸の高鳴りも






　及川の顔が近づいてくるのが見えて
　目を瞑ったのも。








　雷が鳴り響いた瞬間
　2人の影は重なって






　冷えた体に唇から熱が伝わった。
　冷えた心に、火が灯るように。






　目を少し開いたとき
　飛雄らしき人が見えたのは





　きっと気のせいだ。









…
　

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