7.ココアと同じ ページ7
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頬に涙の感触を感じて、手の甲で拭う。
『…っ…すみませ…
フワッと、
木村さんの良い匂いに包まれた。
柾「…辛いときは、泣けばいいよ。」
『……っ……』
木村さんはそれだけ言って、
私の涙が止まるまで、ずっと抱きしめてくれていた。
男の人の体が、
こんなに暖かくて優しいなんて、知らなかった。
柾「…Aちゃん、」
名前を呼ばれて、体を離す。
柾「さっきAちゃん、『また迷惑かけちゃって』って言ったでしょ。……迷惑なんて思ってないから。もちろん他の皆も。」
『……ほんとですか…?』
柾「ほんと。……むしろ、俺らからしたら嬉しい話、なんだよね。」
『……え…?』
柾「…だってさ、毎日Aちゃんの顔見れるんだよ?」
木村さんはそう言うと、
さっきまでの優しい笑顔とは違う、
少し意地悪な笑みを浮かべた。
柾「…だからほんとに迷惑かけてるなんて思わないでね。」
今度は、またいつも通りの優しい笑顔。
さっきの言葉と、
木村さんの表情の意味は、
そのときの私にはまだ分からなかった。
柾「…じゃあ、おやすみ。」
木村さんは、
自分の分のマグカップを持って部屋を出ていった。
私はその背中を、
ただ見つめていた。
まだ残っている私のマグカップのココアは、
木村さんのように思えた。
暖かくて、甘い。
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作者名:サノ。 | 作成日時:2021年10月1日 21時