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手に取ったのは、まだ一度も使われていないであろう黒色のチューブ。それをパレットに広げ、キャンバスに勢いよく一本の黒い線を引いた。無造作に引かれたそれは、あまりにも不格好で思わず笑ってしまった。
その後もキャンバスに黙々と黒を広げていく。美しかった海が、空が、あっけなく黒で塗り替えられていくその様は、思っていたより心地よくて滑稽だった。今にもどろどろと溢れだしそうだったどす黒い何かがふっと消えていき、心が軽くなる。
今度、風丸さんと海を見に行くの。その時の写真を、コンクールの絵にするつもりなんだ。
彼女の笑顔が脳裏をよぎる。恥ずかしそうにはにかんだ彼女。思い出すだけでも苦いものを噛みしめているような気分になる。
ああそうだ。俺は、彼女が嫌いだったのだ。そう気付かされた。こんなにも俺の心の安寧をかき乱す彼女が嫌いだった。彼女の描く絵も、選ぶ言葉も、彼女自身も。全てが嫌いだった。だって、不平等だ。俺がこんなにも想ってるのに、それに気づくことなく他の男ばかり見ている。無邪気で悪意のない彼女の言葉は、幾度となく俺を傷つけた。
俺のことを見てほしい。それだけだったのに。まっすぐだった想いはいつからか歪み、ねじれてしまっていた。
俺は自分が思っていた以上に子どもだった。好きな人の恋を見守り、慈しむような愛情を持ってやることができなかった。あいつを想っての笑顔なら。俺に向けられない笑顔なら、いっそ壊れてしまえばいい。そんなことを考えては、いつしかねじれた愛情を突きつけることしかできなくなった。
そして、俺は馬鹿だった。青一色のキャンバスを他の色で塗りつぶしたところで、彼女の中から青が消えることはない。それが何の意味もない、彼女を傷つけるだけの行為だと初めからわかっていた。わかっていたのに、一時の衝動に駆られて気がつかないふりをした。あの心地よさは、ただの自暴自棄だ。彼女とあいつの思い出を、壊せたような気持ちになっていただけなのだ。
本当に壊れてしまったのは、一体何だったのだろう。
何度自分に問えども、その答えが見つかることはなかった。
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＊IJu＊(プロフ) - これからもこっそり更新楽しみにさせて頂きます……！ (2021年11月4日 21時) (
レス) id: c0312d3eb1 (このIDを非表示/違反報告)
＊IJu＊(プロフ) - いつもこっそり更新を楽しみにしている者ですが、まさかの自分の最推しのお話が更新された事に興奮してしまい…コメント失礼しますorz偽薬さんの小説はどの子のお話も最高に最高で(語彙力)文章も素敵で大好きです…！！ (2021年11月4日 21時) (レス) id: c0312d3eb1 (このIDを非表示/違反報告)
偽薬(プロフ) - 黄昏さん» こちらこそありがとうございます。黄昏さんのイラストですので、もちろん外部サイトに投稿していただいて問題ありません！ URL記載も任意で構いませんよ(^^) (2021年2月19日 17時) (レス) id: 21f878ceea (このIDを非表示/違反報告)
黄昏(プロフ) - 偽薬さん» ありがとうございます…！嬉しいです！描いたイラストなのですが占ツク以外にもTwitter等に投稿してもよろしいでしょうか？(URL記載致します。) (2021年2月19日 15時) (レス) id: 0afb2c72bc (このIDを非表示/違反報告)
偽薬(プロフ) - 黄昏さん» はじめまして、偽薬です。お褒めいただき恐縮です！ ファンアートの件、もちろん大歓迎です！ 楽しみにしてますね！ (2021年2月19日 3時) (レス) id: 2a0f159948 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：偽薬 | 作成日時：2018年10月18日 0時
