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彼女のいない部屋が視界に映ることに耐えられなくて、少しでも視界をぼやかしていたくて、眼鏡を外して壁に向かって投げつけた。レンズが割れる音の後、それは床に落ちる。彼女がよく「似合っている」と褒めてくれた眼鏡。もう彼女はいないのだから、なんの価値もない。崩れ落ちそうになる体をなんとか支えながらテーブルを目指す。
残された者は前を向いて進んでいくしかない。生きていくしかない。たまに皆帆くんが言っていた言葉だ。たぶん、今の僕を見たら彼女も同じことを言うのでしょう。彼女は優しい人でしたから。きっと、彼女も僕が前を向いて生きていくことを望んでいる。
でも僕はそんなこと望んでいない。嫌です。馬鹿なことを言わないでください。彼女のことを置いてまで前に進むなんて考えたくもない。僕は彼女とずっと一緒にいる。立ち直ることなんてしないし死んでも離さない。彼女と過ごした日々に死ぬまでしがみつく。彼女が迎えに来てくれるまで。彼女と同じところにいけるまで。たとえ、彼女がそれを望んでいなくても。彼女がいなくても進む未来なら、僕は受け入れない。
ふらふらとテーブル前にたどり着く。そこには飲みかけのマグカップが残されていた。暗くて水面の色を見ることはできないが、香りからヤクモソウのお茶だとわかった。彼女が出かける前に飲んでいたようだ。彼女と少しでも同じになりたくて、既に冷めきったそれを飲み干した。蜂蜜を入れているのだろう。乱暴な甘さと苦みが口の中いっぱいに広がる。
その瞬間、ぐらりと視界が揺れた。思わずフローリングの上に崩れ落ち、床にへばりつく。気持ち悪い。頭が痛い。嫌な汗が噴き出す。
僕は必死にズボンのポケットを探り、わっか状のそれを取り出す。彼女が遺した婚約指輪だった。目立った傷や汚れはない。警察署で遺品を受け取る際、事故当時の衣服をまとめたビニール袋とは別に「これはきっと、汚したらいけないものだろうから」と僕に返された婚約指輪。遺品の中で、これだけが変わらず残っていたらしい。それをぎゅっと握りしめ、苦しみを紛らわす。
「Aさん……」
会いたい。会いたいです。Aさん。会いたい。いっそのこと、幻覚でもいいから。
視界は白く霞み、泣き腫らした目からまた大粒の涙がぽろぽろと落ちる。葬式であんなに泣いたというのに、僕の体はまだ枯れない。君がいない、こんな地獄がこれから何十年も続くのか。助けを求めるように嗚咽を漏らす。その時だった。
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＊IJu＊(プロフ) - これからもこっそり更新楽しみにさせて頂きます……！ (2021年11月4日 21時) (
レス) id: c0312d3eb1 (このIDを非表示/違反報告)
＊IJu＊(プロフ) - いつもこっそり更新を楽しみにしている者ですが、まさかの自分の最推しのお話が更新された事に興奮してしまい…コメント失礼しますorz偽薬さんの小説はどの子のお話も最高に最高で(語彙力)文章も素敵で大好きです…！！ (2021年11月4日 21時) (レス) id: c0312d3eb1 (このIDを非表示/違反報告)
偽薬(プロフ) - 黄昏さん» こちらこそありがとうございます。黄昏さんのイラストですので、もちろん外部サイトに投稿していただいて問題ありません！ URL記載も任意で構いませんよ(^^) (2021年2月19日 17時) (レス) id: 21f878ceea (このIDを非表示/違反報告)
黄昏(プロフ) - 偽薬さん» ありがとうございます…！嬉しいです！描いたイラストなのですが占ツク以外にもTwitter等に投稿してもよろしいでしょうか？(URL記載致します。) (2021年2月19日 15時) (レス) id: 0afb2c72bc (このIDを非表示/違反報告)
偽薬(プロフ) - 黄昏さん» はじめまして、偽薬です。お褒めいただき恐縮です！ ファンアートの件、もちろん大歓迎です！ 楽しみにしてますね！ (2021年2月19日 3時) (レス) id: 2a0f159948 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：偽薬 | 作成日時：2018年10月18日 0時
