＊ ページ24
手持ち無沙汰になった俺は、ベッドに無造作に広がるAの髪を指で梳いてみた。柔らかくてよく手入れされた髪。持ち上げてみると、絡まることなく手のひらからするりと落ちて、シャンプーの甘い香りを広げた。今度は、目のあたりにかかっていた前髪をすくって、横に流してやる。浮気性な、けれど自分の意志は貫く彼女のまなざしは、やはりいつ見ても美しかった。
そうやってしばらく遊ばせてもらっていると、彼女は目を嬉しそうに細めて、腕をすっと上げた。やわくて細い指先が、俺の輪郭を確かめるようになぞる。
「修也はいい子だねえ」
そう呟いて、まるで幼子でもあやすように優しく俺の頬を撫でてくれた。声色は優しいのに、まるで小悪魔のような顔をしている。ハンドクリームだろうか、指からも甘い香りがする。
ぞくりとした。どうしてAはこうも、俺を魅了するのがうまいのだろうか。食べてしまいたいくらい可愛いという感情に襲われる。少しくらい噛んでも怒られないだろうか。
「ねえ」
「ん？」
「私のこと怒ってる？」
たまに彼女はこうして、怒っているかどうか聞いてくる。だいたい何の脈略もないので、他の男の元へ行っていることに対して尋ねているのだろう。その度に、怒っているように見えただろうか、と思いながら「いや、怒ってないさ」と返すのだ。
「……そう」
怒ってないのね。そう呟くと、その日はもう何も喋らなくなってしまった。
時が経つほど、彼女の浮気癖は顕著なものになっていった。他の男の話を平気でするようになったし、二人で会っている時に、他の男の呼び出しでいなくなってしまうこともあった。知らないアクセサリーを身に着けていることも増えた。気まぐれに、戯れるように俺のもとに現れては、見せびらかすように俺の前から消えていく。
それでも、他の男の元に行っても必ず帰ってくる。あいつの中の一番が俺ならいいと、特に咎めることもしなかった。俺は惜しみなく愛の言葉を伝えたし、彼女が求めることは何だってしてきた。Aの寂しさを満たすのに俺だけでは不十分、それだけのことである。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 68人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
＊IJu＊(プロフ) - これからもこっそり更新楽しみにさせて頂きます……！ (2021年11月4日 21時) (
レス) id: c0312d3eb1 (このIDを非表示/違反報告)
＊IJu＊(プロフ) - いつもこっそり更新を楽しみにしている者ですが、まさかの自分の最推しのお話が更新された事に興奮してしまい…コメント失礼しますorz偽薬さんの小説はどの子のお話も最高に最高で(語彙力)文章も素敵で大好きです…！！ (2021年11月4日 21時) (レス) id: c0312d3eb1 (このIDを非表示/違反報告)
偽薬(プロフ) - 黄昏さん» こちらこそありがとうございます。黄昏さんのイラストですので、もちろん外部サイトに投稿していただいて問題ありません！ URL記載も任意で構いませんよ(^^) (2021年2月19日 17時) (レス) id: 21f878ceea (このIDを非表示/違反報告)
黄昏(プロフ) - 偽薬さん» ありがとうございます…！嬉しいです！描いたイラストなのですが占ツク以外にもTwitter等に投稿してもよろしいでしょうか？(URL記載致します。) (2021年2月19日 15時) (レス) id: 0afb2c72bc (このIDを非表示/違反報告)
偽薬(プロフ) - 黄昏さん» はじめまして、偽薬です。お褒めいただき恐縮です！ ファンアートの件、もちろん大歓迎です！ 楽しみにしてますね！ (2021年2月19日 3時) (レス) id: 2a0f159948 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：偽薬 | 作成日時：2018年10月18日 0時
