第115話 ページ41
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『ねえ万里』
万里「ん」
『ほんとは私に不満があったんじゃないの』
水分を含んだ髪をタオルで優しく挟みながら、そう尋ねた私。
されるがままの万里から「んなもん、ねーよ」と返ってきたけど、何となく腑に落ちなくて。
ドライヤーを手に取り、温風を髪にあてる。
その間も万里はされるがままで、何も言ってくる気配はない。
"八つ当たり"。
万里はそう言ったけど―――。
『はい、完成』
万里「サンキュー」
どこか悶々とした気持ちを抱えている内に、髪も乾かし終わって。
眠いのかふぁっと欠伸を溢した万里の隣に膝を抱えて座った私。
万里「なんだよ」
『...別に何も』
万里「あっそ」
―――何も、なくはないけど。
いつもの癖で、そんなことを言ってしまった自分が腹立たしい。
至は、私のこと素直って言ってくれたのに。
今の私はそんな言葉よりはるか遠くだ。
でも実際、何を言えばいいのか分からなくて。
不満なんかないって言われちゃったら、私はそれ以上何も言うことができないじゃないか。
『...万里のばか野郎』
万里「っは、他になんも言うことねーのかよ」
投げやりにそういった私を、鼻で笑った万里。
私が何か言いたいことがあるって気づいているはずなのに、絶対にそれは聞いてこない。
いつも、そうだ。
興味ないのか、そのまま違う話に移って――。
『っ』
...違う。
"どーせ、なんかあったんだろ"。
一緒に劇場で寝ようと誘ってくれた咲也を拒絶したあの日、万里が一度だけ触れてきたことがあった。
その時も万里はいつも通りの表情で、私はそれにひどく安心したのを覚えてる。
―――そんな万里に、私は『なんでもない』って答えたんだ。
『...ごめん』
興味ないわけ、ないじゃないか。
私とずっと一緒にいた万里が、私がどうされたら"ダメ"になってしまうか、知らないはずがないのに。
万里が意外と優しいってこと、私は知ってたのに。
『私、全然万里のこと分かってなかったんだね』
万里「っっ」
―――"...俺のこと見てねぇくせに、勝手なこと言ってんじゃねぇよ!"。
今になって、万里に言われたその言葉が、痛い。
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琥珀(プロフ) - えななんさん» 更新ができずお待たせしてしまってすみません...。こうして今でもコメントいただけると、とっても嬉しいです!寒くなってきましたので、お身体にはお気を付けくださいね。 (2022年10月6日 11時) (レス) id: 3c7d372253 (このIDを非表示/違反報告)
えななん(プロフ) - だいぶお話も進んで、冬組に近づいてきていて嬉しいです!これからも楽しみにしてます! (2022年10月3日 17時) (レス) @page41 id: 15071f4cc5 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀(プロフ) - るるるーさん» ありがとうございます!これからも喜んでいただけるように更新を続けていこうと思っているので楽しみにお待ちいただけると幸いです! (2022年8月8日 0時) (レス) id: 74473316dd (このIDを非表示/違反報告)
るるるー(プロフ) - この前作品を読み始めたばかりなのですが、あっという間に読んでしまいました!!ワードセンスや設定などとても好みです!無理しない程度に、更新頑張ってください。応援しています! (2022年7月29日 18時) (レス) id: 4d458783a4 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀(プロフ) - 瑠李さん» 本当ですか!?お読みいただきありがとうございます!更新頻度にばらつきがありますが、是非楽しみにしていただけると嬉しいです^^ (2022年7月14日 10時) (レス) id: 8c7c498829 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琥珀 | 作成日時:2022年4月11日 23時