爪紅 ページ24
「ねぇ、主！爪紅塗ってみない？」
「爪紅…？…あぁ、マニキュアのことかな？」
ある日の午後、突然私の部屋に来た加州くん。ちょうど書類仕事が一段落して、少し休憩にしようとした。加州くんもお見通しのようで、頃合いを見計らってやって来た様だ。
「そうそう、主せっかく可愛いのにお洒落っけ全然ないんだもん！もったいないよ！」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞でもなんでもないけどね！さっ！塗ろう！」
お互い、机に向かい合うように座り私は手を差し出す。加州くんは慣れた手付きで爪のお手入れをした後、丁寧に塗ってくれている。
沈黙が続くなか、ポツリと呟いたのは私からだった
「爪紅なんて、初めて塗ったな…」
「へっ？そうなの？」
不思議そうに私の顔を見る加州くんに頷き理由を話す。
小学校の頃から登校は制服だったし、大学に入るまでは割りと校則が厳しいところだった為、まず学校の中ではしない。また休日も中学から部活に入っていたため、遊ぶことも少なかった。大学入って私服で色々とお洒落はあっても、入った学科が手を使う家庭科系の学校なので、マニキュアを塗ることは禁止。
就職してからも、食べ物を主に扱う業界だったため、そう言った類いは無縁だったのだ。
「規則に縛られすぎだよ主…ほらっ休みの日ぐらい、楽しいことなかったの？」
私を心配してくれた加州くんに微笑みながら「勿論あったよ。友達と遊びに行ったり、大人になってからは旅行行ったりね」
お洒落はあんまりしていなかったが、楽しい思い出はあるもので、そのことを話せば加州くんは少し安心したように「そっか…良かった」と呟いてくれた。その表情はとても優しく穏やかだ。
私はそんな彼に向かってありがとうとお礼を良い、塗ってくれた爪紅をみる。綺麗に整えて貰った爪には淡いピンクで、白い花が書かれていた。
「白百合を書いてみたんだ。何となく主に似合いそうだなと思ってね」
「加州くんって本当に器用だね。見本とか何も無かったよね？」
「まぁね、これくらい大したことじゃないよ」
誉められて嬉しいのか後ろにはチラチラと桜が舞っている。
「嘘ばっかり…散々僕の爪で練習したくせに」
声が聞こえると、いきなりスッと障子が開かれる。そこには少し呆れたように大和守くんが立っていた。
どうやら内番が終わったことを知らせに来てくれたようだ。
「大和守くん、内番お疲れさまです。どうぞ入って」
にこやかに笑いかけると「そうする〜ありがとう主」と笑い、私の隣に座った。
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作者名：セローナ | 作成日時：2017年3月8日 0時
