影山(弟)は実はチート。No.2

アリー・セリンジャー ページ11

鷲匠side

俺達のような強豪は三日目を戦うことも珍しくねぇが、一年ともなるとそうはいかない。
特に掘出しものの選手なんかは、どんな強心臓でも"慣れぬ場"というものは牙を剥く。

緊張はしていないのに、脳はクリアなのに、何かが違う。
その違和感が、足に絡みつく。

できれば三年のいるうちに、影山を『三日目』に慣らしておきたかったが……今のあいつじゃあ、観るように仕向けたほうが良さそうだな。

あいつはバレーボールを知っている。
誰に教わったのかは知らねぇが、優秀な指導者に導かれたのは間違いねぇ。
監督としての視点が植えつけられているのは、その指導者の賜物。
俺も、その難しさは十分にわかっているつもりだ。

だが、少々思考が偏りすぎている。
確かに隼人のようなコミュニケーションのとれる、直接士気を高められるリベロは必要だ。需要がある。
しかし、それと同時に圧倒的な存在感を放つ、確かな実力を備えるリベロも、世界中の監督が喉から手が出るほど欲しがるだろう。
これほどの実力は手放すに値しないのだ。

ボールを落としさえしなければ試合には負けない。
攻撃を求める者にとって守備こそが一番の盲点。その盲点を一人で補完することがどれほど難しいか。
それは言うまでもないだろう。

うちのリベロは優秀だ。
違うジャンルの強さを備えた武器が、最高レベルで二つ揃っている。
どれだけ他のチームを探しても、こんな恵まれたチームはない。

だから、観ろ。
自分にない武器を知れ。
先輩の存在の大きさを感じろ。

この三年がいるのはもう最後だ。
このリベロが揃うこともない。

どんな声掛けをしているか、どこを視ているか。
じっくり、二試合分の時間をくれてやる。

……？
なんだ……？
良くも悪くも安定しているはずの山形の守備。
妙にタイミングがずれたと思ったら、落下点への移動が異様に速いこともある。
……。
「なんだか、山形の調子がおかしいですね。良いのか悪いのか」
調子か……？
「ああ、珍しいな」

ドッ____！

「ナイスレシーブ！」
ほぅ……"安定してきた"か。
「……あれは、影山のマネですかね？ほら、床を見るの」
「だろうな」

なるほど。
お前まで主張してくるか。
『小さくても俺は戦える』と。
今の山形は烏野の十番を思わせる。

「ナイスレシーブ！」
『これもあげる！白鳥沢の守護神達が止まらない！』

____かつて、名将アリー・セリンジャー監督が言った。
「未来に発展も変革も無いと信じる理由は無いのである」

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