vol.62 ページ20
side 薮
「寒っ…。」
白い吐息が空気に溶けた。
寒がりな上に外に出るのがあまり好きじゃない俺は冬になると余計に動きたくなくなる。
出来れば暖かい部屋でのんびりしながら、思いつくままに作詞をしていたいけれど、今日はそうはいかない。
1月15日。
年が明けて、早二週間。
あの手術から半年が経った。
そして今日は君の、退院する日。
・
・
「伊野尾。」
通い慣れた病室も今日で見納め。
伊野尾はベッドの上に座っていた。
「来てくれたんだ。外、寒かったでしょ？」
「冬だからね。それよりもほら、退院おめでとう。」
持ってきた紙袋の中には、この冬の期間限定だというプリンの新作。
それを見るや否や、パッと顔を輝かせる。
「ありがとう！これ食べてみたかったんだよね。」
荷物をまとめ、物寂しくなった部屋。
唯一鞄にしまわれていない、高木さんから貰ったという海の砂や貝殻の入った瓶を手の中で転がしていた。
「信じられないよね、もう半年も経つんだって。」
「そうだね、この半年で随分変わったから。俺も伊野尾も。」
「仕事はどう？」
俺はその質問に、大きく息を吸い込んだ。
「うん、大丈夫だよ。」
「そっか、なら良かった。」
「まだ最盛期の頃には届かないけど、それでもちゃんと前には進んでる。自分で言うのも恥ずかしいんだけどね。」
あの後、たくさんの詞を書いた。
長いブランクもあってか、最初はなかなか自分の満足したものを書けずに折れそうになったこともあったけれど、その乗り越え方はもう学んだ。
「伊野尾はこれからどうするの？」
「んー、どうしようかな。まだはっきりと決めてないんだよね。」
「そっか。」
伏目がちな瞳に惹かれてしまう。
彼の白い肌が、窓から差し込む光に照らされて煌めくように見えた。
「両親も退院してすぐは無理せずにって言ってくれてる。だから思い切って好きなことをしてみようかなって。」
「なるほどね。また時間が出来たらうちにも遊びに来てよ。」
「うん！もちろん。」
約束を交わしたところで、病室の扉が開いた。
そこから顔を覗かせたのは高木さんで、いつもと同じ声で彼の名を呼ぶ。
「伊野尾くん。」
「どうしたの？高木。」
「そろそろ行く時間だよ。」
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天凪(プロフ) - Blue Whiteさん» たくさんの嬉しいご感想ありがとうございます。そんな風に思っていただけるだけでも幸いです。お礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございます、これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2017年9月9日 0時) (
レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - blue catさん» こちらこそ素敵なご感想ありがとうございます。最後まで読んでくださって、更にはご自身の体験に重ねて考えていただけるなんて本当に光栄です。このお話が何かのきっかけになれば幸いです。応援しています、頑張って下さい！ (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
Blue White(プロフ) - はじめまして。このお話はすごく文章が綺麗で、物語にのめり込みながら読んでいました。とっても感動できる作品でした。「ありがとう。」って言いたいです。これからも頑張ってください。応援しています。 (2017年9月7日 18時) (レス) id: 96f5815679 (このIDを非表示/違反報告)
blue cat(プロフ) - 本当に感動しました！！私自身、ずっと”才能”という言葉に囚われていました。今でも、逃げてしまいたくなるくらい、泣きたくなるくらい、周囲との力量の差を感じることがあります。でも、この小説を読んで自分の気持ちと向き合おうと思いました！有難うございました！ (2017年9月3日 20時) (レス) id: 2b68782549 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - くるみさん» お返事遅くなってすみません…！嬉しいご感想本当にありがとうございます。皆様の応援あってこその作品でした！またいつでも覗きに来てくださいね！ (2017年6月6日 18時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
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