vol.61 ページ19
『雨のち』というタイトルにはどんな意味が込められているのか分からない。
彼の大好きな快晴が、雨の後には待っているからだろうか。
それとも晴れた空に架かる虹を想像したのだろうか。
土砂降りの雨の後は、空が綺麗に晴れる事を知っていたからなのだろうか。
「挫折ってものを知らないくらいに順調だったからさ、俺の今までが。」
「…うん。」
「書けないってことが信じられなくて、こんなの自分じゃない。書けないなんて俺じゃないって勝手に塞ぎこんで。」
「……うん。」
ため息交じりの笑顔。
困ったように笑う彼の顔を窓から入り込む日差しが照らす。
「そんなの、誰にでもある事なのにね。俺、本当に馬鹿だったよ。」
「そう?」
「うん、そうだよ。それに気づかせてくれて、本当にありがとう。」
「……もう、怖くない?」
本当はこんなこと、聞かない方が良いのかもと思ったけれど今の彼なら何となく大丈夫な気がして。
「うん。全然怖くない。」
その表情は窓の外の雲一つない快晴と同じように澄みきっていた。
どこまでも澄み渡る空と、同じ色。
彼はもう、傘を差さなくても大丈夫だ。
「俺もだよ、もう何にも怖くない。」
「本当に?」
ちょっと茶化すように聞いてきた彼に思わず笑ってしまう。
何て素敵な事なんだろう、何て幸せなことなんだろう。
「本当だって、信じてよ。」
「あ、でも高木さんが最近この階の廊下に白衣の看護師のお化けが出るとか……」
「………は?」
「……ははっ、やっぱ怖いんじゃん!」
悪戯っ子の様に笑った彼を見て、一瞬で気が抜けた。
「つまんない嘘吐かないでよ、一瞬だけ怖くなったんだから!」
「ごめんって、伊野尾はそういうの信じないタイプだって思ってたから。」
「え、そう見える?俺、意外と信じるタイプだよ。」
へぇ、と彼は興味深そうに頷いた。
「俺、まだ伊野尾のこと何も知らないかも。」
「俺も薮のこと、まだ何も知らないよ。」
ぎゅっとノートを両手で大事に抱える。
あの時見たアルバムのような重みが、そのシンプルなノートにはあった。
まだまだ時間はある。
先は長いんだ。
だから、知らない事もゆっくりと知って行けばいい。
本当に大切なものは、きっと目には見えなくて。
誰もが持っているけど、知らない間に曇っちゃう。
俺のひと夏はこうして、快晴のままに終わった。
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天凪(プロフ) - Blue Whiteさん» たくさんの嬉しいご感想ありがとうございます。そんな風に思っていただけるだけでも幸いです。お礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございます、これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - blue catさん» こちらこそ素敵なご感想ありがとうございます。最後まで読んでくださって、更にはご自身の体験に重ねて考えていただけるなんて本当に光栄です。このお話が何かのきっかけになれば幸いです。応援しています、頑張って下さい! (2017年9月9日 0時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
Blue White(プロフ) - はじめまして。このお話はすごく文章が綺麗で、物語にのめり込みながら読んでいました。とっても感動できる作品でした。「ありがとう。」って言いたいです。これからも頑張ってください。応援しています。 (2017年9月7日 18時) (レス) id: 96f5815679 (このIDを非表示/違反報告)
blue cat(プロフ) - 本当に感動しました!!私自身、ずっと”才能”という言葉に囚われていました。今でも、逃げてしまいたくなるくらい、泣きたくなるくらい、周囲との力量の差を感じることがあります。でも、この小説を読んで自分の気持ちと向き合おうと思いました!有難うございました! (2017年9月3日 20時) (レス) id: 2b68782549 (このIDを非表示/違反報告)
天凪(プロフ) - くるみさん» お返事遅くなってすみません…!嬉しいご感想本当にありがとうございます。皆様の応援あってこその作品でした!またいつでも覗きに来てくださいね! (2017年6月6日 18時) (レス) id: a99f998358 (このIDを非表示/違反報告)
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