【文スト】疑問符【太宰治】

疑問３９ ページ41

ピッ、ピッ、ピッ…



目を覚ました先には白い天井

薬品の独特な匂いが鼻を掠めた｡


…武装探偵社の医務室？

否、探偵社にこんな専門的な器具は置いていない｡
それに此処には鉈などの治療道具(・・・・)が無い｡

でも確かに此処には見覚えがあった｡


「……ポートマフィア…」

…扶けられたのか

小さく舌打をする｡

太宰さんに棄てられた今の私に生きる価値等無いのに
とひとりごちる｡

もういっそ見殺しにでもしてくれれば好かった
なンて云ったら、誰か怒ってくれるだろうか｡




ハァ、と一つ溜息を吐き、重い身体に鞭を打って起き上がる｡

懈(だる)いだけで特段何処が痛いとかは無かった｡


ふいと横に視線をやれば、小さな机は物で溢れ返っていた｡

一番上に
おみまい!!
とクレヨンで書かれた画用紙が添えられている｡

エリス嬢が来てくれたのかな


皆見舞いの品までも個性的で
個人を特定するのは難しくなかった｡

簪、兎の縫い包み、檸檬…

…無花果の量が半端じゃないな
何回来たンだ 芥川…


「……あれ この自鳴琴(オルゴール)…」


螺子(ねじ)をまわせば、ぎこちなくショパンが流れ始める｡

間違いない
小さい頃サンタ(首領)に貰った贈呈品(プレゼント)だ｡

中也と一緒に太宰さんに凄い自慢した気がする｡

…当然無視されたが｡


何で之が此処に？

マフィアを抜ける時持って行って、探偵社に隠してあったンだけど…｡

之が私のだと知れて、取り出せるのは唯一人

「……真逆、ね」


太宰さんの筈が無い





思考を遮断する様に自鳴琴(オルゴール)の下に置かれた紙束を手に取った｡


――最新捜査資料？

…皆は私を社畜だとでも思っているのかな？


溜息を吐いて、内容にざっと目を通す｡

驚きより納得が勝った｡


“二十代誘拐殺人事件
新たな被害者――加賀乙彦”


『俺はこの事件の被害者で、もう死んでいます』



……一寸待てよ？

この際偽装の方法なんて如何でも善かった｡

加賀さんが消えれば遅からず捜査は打ち切りになる
存在しない犯人を追うのは無意味だから


犯人を捕まえられない様な奴は必要無い(・・・・)…？



「行かなきゃ…」

犯人を捕まえなきゃ

私、また太宰さんを失望させちゃう



一瞬、嗅ぎ慣れた花の香りが過ぎる｡

「その必要は無いですよ」

僕は此処です
なンて、あまりに都合が佳い｡


「お迎えに上がりました」


細められた紅い瞳からは何を考えているのか想像もつかなかった｡



決められていた


もうずっと前から




標的(ターゲット)は私だ｡

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