【文スト】疑問符【太宰治】

疑問２６ ページ28

「クローバー、ねえ……」


今度探して持って行こうか…

でも枯れちゃうしなァ


一晩経った朝、机仕事の手を止め考える｡


賢治くんが首を傾げ
クローバーが如何したんですか？
と聞いてきたので、意味も無く言葉を濁した｡
言葉が詰まった、と云った方が正確かもしれない｡

彼はさほど気にしていない様子だった｡







「それにしてもこの事件、よく解らないですよねー」

「同感」

机の上に置いてあった資料に手を伸ばす｡

賢治くんが覗き込んでいたので、彼に手渡した｡


項垂れる私に賢治くんは太陽の様な笑みを向けてくれた｡


「手掛りが全く攫めないンだよねェ…」

「Aさんが此処まで手こずるのも珍しいですね」

余程難事件なんでしょう！
なンて賢治くんは笑う｡



「そもそもこの事件、本当に同一犯なんでしょうか？」

「？ 如何云う事？」

「だってこの人達、明確な共通点は無いんですよね？
共通とされる年齢も曖昧で振れ幅が有りますし」


まあ考え過ぎですかね！

賢治くんはそう云って笑った｡


確かにそうだ
20代前半だなンて曖昧な共通点で同じ事件だ、なんて判断できない｡

あまりにも情報量が少なすぎる｡

…軍警は何か情報を隠している？




なンて、これこそ考え過ぎだな

屹度この考えを追っても堂々巡りだ｡
大きく溜息を吐いた｡



お疲れ様です
賢治くんからの労りの言葉と一緒に資料を受け取る｡


「早く犯人さんが名乗り出てくれると善いですね！」

「…多分無理だと思う」


何度目か判らない程読み込んだ資料にもう一度視線を落とした｡









「あ、そうだ
敦くんに云いたい事あったンだ」

「えっ 僕にですか？」

敦くんの肩が小さく跳ねる｡

説教じゃないよ
と伝えれば、彼は安堵の息を溢した｡


「机仕事、有難うね
扶かった」

「え、」

小さく声を洩らした敦くん｡
その表情は困惑で歪んでいる｡


本ッ当変に視野狭いんだから…
乱歩さんの小さな呟きがやけに耳に残った｡



「私が外に出てる時、机仕事やってくれたでしょう？
この前は今回の事件について資料纏めてくれたじゃない」

今日だって殆ど机仕事無いし

机に向かえば置かれている仕事は紙一枚だけだった｡
屹度敦くんがやってくれたのだろう｡

優しい後輩だなァ


もう一度感謝の意を伝えれば、敦くんは困った様に眉尻を下げた｡




「あの…、Aさん
それ僕じゃないです」


.

疑問２７→←疑問２５

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す