【文スト】疑問符【太宰治】

疑問１６ ページ18

「おはようございます」

「おおA！
もう大丈夫なのか？」

「ええ、もうピンピンです！」

国木田さんに右腕に力を込めて力瘤を見せ付ければ
お前に筋肉は無い
と一蹴された。悲しい｡



却説、私が居ない間に事件に進展があっただろうか？
敦くんに聞いておかなければ｡


少しばかり跳ねながら担当事件について考え席に向かった｡



「…何だか楽しそうだな」

「あら乱歩さん判ります？」

そう。私は今頗る機嫌がいいのだ｡


そう云えば先刻の青年にも言い当てられた｡

そんなに顔に出ているのか
と顔をペタペタ触ると
雰囲気が柔らかいのさ
等と呆れた様に呟かれた｡


「聴いて下さいよ！
昨日夢に太宰さんが出たんです！二度も！」

嬉々として告げると、乱歩さんは少し笑ってくれた｡
厭じゃない笑みであった｡






「太宰ならそこだ」

乱歩さんの指した先ではソファで寛ぐ太宰さんの姿｡

太宰さんは今気付いたと云う様に顔を緩慢に上げてから、判り易く顔を歪めた｡


「何だ。君、もう来たのかい
もっと休んでて良かったのに」


その(現実の)鳶色の瞳は酷く冷たかった｡



「あ、仕事は私の机の上から持って行ってくれ給え」

「…了解しました」

「うん」

ちらりと盗み見る様にして太宰さんの机を見れば、資料とプリントのタワーが出来上がっていた｡

……今日は矢鱈多いな｡
溜息を何とか堪えた｡


太宰さんは我関せずとでも云うかの様に、淹れたばかりであろう珈琲を啜っていた｡
いつも通りと言えばいつも通りである｡


そう､
いつも通り(何も変わらない)



――富士の頂上から思い切り落とされた気分だ｡


矢張り夢は夢か｡

現実になる事など有得ないのだ｡


引き受けた太宰さんの資料を見つめ、夢から醒めた事を実感した｡





「あ、Aさん！
もう大丈夫なんですか？」

「否敦くん…私はもう駄目だ……」

「ええっ!?」


矢ッ張り風邪は駄目だね
なんて呟けば、それを拾った敦くんが
当たり前じゃないですか
と困った様に笑った｡
私も誤魔化す様に笑い返した｡




きっと風邪の所為なんだ｡


気分が良かったのに
太宰さんと話せて嬉しい筈なのに

何故だか心臓(こころ)が痛いのは



そっと自分の胸を押さえた｡


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