*アズール・アーシェングロットの独白 ページ15
「…えっ?」
情けないことに僕の口から出た言葉はそれだけだった。
いつもの回る口が全然回ってくれない。
まるで鯉になったかのように、パクパク動く口からは言葉にならない声しか出てこない。
しょうがないでしょう。
それだけ彼女は僕にとって大切な人だったんだから。
『クズでのろまなタコ野郎、なんて言われていたんですか?』
オーバーブロットから目が覚めた時、僕の視界一杯に映ったのは優しい目をしてこちらを覗き込むAさんの姿だった。
まだボーっとしている頭に入り込んできたのは、僕が一番聞かれたくなかった質問で、でも迷惑をかけた手前、彼女には答えを知る権利があって…
『その、通りです。』
たえたえに答えた僕の声は震えていた。
きっと、幻滅される。
そう思って疑わなかった僕の耳に次に聞こえた言葉は
『じゃあ、アズール先輩はきっと嫉妬されてたんですね。努力はどの世界でも素晴らしいものですから。いいじゃないですか。努力家のタコ野郎。』
そんな彼女の眩しすぎるものだった。
大っ嫌いだった【タコ野郎】っていう響きが、好きになるほどに…。
僕の頭を撫でながら彼女は太陽のように微笑む。
いつぶりだっただろうか。
他人に褒められるのは。
他人に妬み以外の言葉を貰うのは。
他人にこんなに優しく撫でられたのは。
「ぐすっ。う、うわぁぁぁぁぁん!」
僕、実はダメな子なんです。
承認欲求が強いんです。
だからまた言ってくださいよ。
僕の作った賄を食べて
『アズール先輩天才!めっちゃ美味しいです。』って。
そう言って笑ってくださいよ。
あなたが笑ってくれるなら、褒めてくれるなら…いくらでもあなたの為の料理を作るから。
対価なんて1つも求めないから…。
初めて陸に上がった時のように、上手く息が出来なくなる。
肺呼吸ってどのように行っていたんですっけ。
息苦しくてかなわない。
Aさん、あなたは残酷な人だ。
こんなに僕の心に入り込んできて、タコ壺から僕を引っ張り出しておいて…何も言わずに黙っていなくなるなんて。
心の準備させてくださいよ。
心も頭も整理がつかなくて大変だ。
でも、やることは決まった。
いつか僕があなたに会いに行きます。
きっともう一度会える方法があるはずだから。
え?大変じゃないかって?
ふふふ、大丈夫ですよ。
…僕は努力家なタコ野郎ですから。
だから、頑張るから…今だけは泣き虫でいさせてください。
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檸檬 - あ、あのぉ。ぞ、続編ってどうしたら見れますかねぇ.....?芋けんぴ様さえよければパスワードを教えてもらいたいのですが... (11月4日 21時) (レス) @page42 id: b3274f6834 (このIDを非表示/違反報告)
かな(プロフ) - 初めまして!とても楽しく読ませて頂きました、素敵な作品をありがとうございます! 続編?も読みたいのですが…公開はする予定はありますか?とても気になります… (2023年2月2日 8時) (レス) @page42 id: a32747b1ee (このIDを非表示/違反報告)
芋けんぴ(プロフ) - 美南さん» 美南様、コメントおよびご指摘ありがとうございます。文字数の都合上、「この世の終わり」と表現させていただきました!!そうですね…皆様の涙腺を破壊してしまったみたいで…反省してます…。ティッシュ贈呈でどうでしょう?笑 (2021年8月11日 9時) (レス) id: e6e71631e0 (このIDを非表示/違反報告)
芋けんぴ(プロフ) - まあゆひやさん» まあゆひや様、コメントありがとうございます!お返事遅くなってしまい申し訳ありませんでした…。独白、読んでくださりありがとうございました! (2021年8月11日 9時) (レス) id: e6e71631e0 (このIDを非表示/違反報告)
芋けんぴ(プロフ) - R−アル−さん» のりまーす!!のりますよ?? (2021年8月11日 9時) (レス) id: e6e71631e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:芋けんぴ | 作成日時:2021年3月3日 0時