人間洗浄機９

２ ページ7

「…ちぇ〜。」

事務所の中で乱数はつまらなさそうに呟く。
カフェに行っても、公園に言っても、パチンコに行っても、カジノに行っても…
あの2人の影は微塵も見えなかった。

仕方なく事務所に帰ってきた乱数。
結局、＜おねーさん＞からのチョコだけが増えた。
それをテーブルに並べて、市販のものを１つ口に放り込む。

「…にっが。」

偶々＜カカオ60％＞のチョコで、苦みが乱数の口に広がる。
乱数は顔をしかめると、ソファーに寝そべった。

＿あぁ、このまま寝てしまおうか。
そのまま乱数は瞼を閉じた。



「…だ。…き…むだ。」

遠くから声がする。
＿落ち着く声。

身体が揺すられる感覚がする。
＿温かい手。

乱数の意識が現実へと招かれる。
ゆっくり瞼を開くと

「あ、やっと起きた。おはよう乱数。」

そう言って微笑む少女の姿があった。
時刻は18時。
思ったより早い到着にだった。

「…遅い。」

「お、ブラック乱数ですか。」

乱数はムスッとしながら少女に手を差し出す。

「何？」

「…俺に渡すものがあるだろ？」

「…っく、あはは！」

少女はその手を見て思わず笑ってしまった。

「何笑ってんだよ。」

「いやぁ、ごめんごめん。」

少女は呼吸を落ち着けながら、ちらりとテーブルのチョコの山を見る。

「こんなにチョコ貰ってるからてっきりもういらないかと思ったよ。」

「…うっさい。」

「はい、どうぞ。ハッピーバレンタイン。」

少女は楽しそうに乱数にチョコを渡す。
乱数はそれを受け取ると同時に、早速封を開けて口に放り込む。

「…手作り？」

「うん。トリュフとクッキー。」

＿味はどう？
と少女が問いかけると、

「悪くない。」

そう言って乱数は満更でもなさそうに笑った。
そんな乱数を見て、少女は微笑む。

「クッキーは乱数にだけ入れたんだよ。…特別に。だから内緒ね？」

「は？何で？」

「さぁ？何ででしょう。」

少女は楽しそうに笑う。
秘密にされるのは面白くない乱数は、少女を睨みつける。
でも、その心はムズムズしていた。

＿何で俺だけに…特別なんだよ。

少女からの思いが偽りでは無いと知ってしまっているからこそ、くすぐったい。
こんな愛、乱数は知らないのだから。

「教えろよ。」

「知りたい？」

「さっきからそう言ってる！」

少女はクスクス笑うと、乱数に手を伸ばす。

「じゃあ、正解を探しに行こうか。」

「は？」

＿何か今日は上手く行かないなぁ。
そう思いながら乱数は少女の手を取った。

３→←番外編：マリオネットに花束を

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す