幾時の針・消えない物語【 ３ 】

時・114 ページ16

◆ 太輔・side ◆

あの一件から、まったくお菓子は 作らなくなってしまった。


笑顔もなくなった…



「最近、ようやくなくなったな、都市伝説」


「え… ああ」



感心がなくなったのか、それとも他にネタが出来たのか、聞かれることはなくなった。


いつも通りの平穏が戻ってきていた。



「Aちゃんは？」


「ダメ」



料理はする。でも、お菓子は…


一度勧めたが、思いっ切り拒否。



「ホント、お前のところは いろいろあんな」


「誰のせいだよ、誰の！」



元はと言えば、お前(北山)が悪いんだろうが！


それなのに他人事のように言いやがって(-_-メ)ｲﾗｯ…



「それは、本当に悪かったって。でも、いい機会だから のんびりすれば？」


「のんびり？」



…



「俺も嫁の実家に挨拶に行って ひと段落ついたら のんびりするつもり」


「沖縄でも行こうって 話してる」



沖縄…




― 『 私… じゃ… ないって… … 早く言って！！ 』 ―




あの人いる所…


俺の中で崇拝する気持ちは変わらない。でも、表面立つのはやめた。


これ以上 不安にさせたくないからだ(沖縄移住も白紙)


今回の件… あの鬱になりかけの状態の時に似てる気がする…


無理して平静を装ってる。大丈夫と言い聞かせてる気がするんだ。



「やっぱり 治りきってないんだと思う… 」


「鬱か？」



そう… 中居さんの言った通り、あの病気は難しいんだ。


薬を与えれば治るような簡単な病気じゃない。


鬱にさせたくない…


でも、元々が我慢強い。我儘を言えと言っても過去の記憶がある為 それは無理なこと。


性格上、しょうがない部分、どうしたらいいのか…



「やっぱり気分転換するしかないって、旅行とかさ」


「行くと思うか？」



あの様子からは…



「… ないな」


「だろ？」



呑気に言った北山も黙ってしまった。



「でもさ、気分転換はした方がいい」


「お前もだぞ」



え…



「俺？」


「そう。じゃないとお前まで 自分を見失う」



え…



「彼女のことを想うのはいい、でも 考えすぎて お前まで壊れてほしくない」


「大丈夫だよ、彼女は鬱になんかならない。お前がいるんだから」



北山…



「リラックスしろって」


「あ！そうだ！久しぶりに海とかは？よく木村さんに連れてってもらったじゃん」




海か…




いいかもしれない。




仕事帰り、すぐには帰らず 昔よく行ってた海へと車を走らせた。

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