幾時の針・消えない物語

時・26 ページ26

◆ 太輔・side ◆


― 『 でも、名古屋に帰ったからって 安全じゃない 』 ―



渉が言うように どこにいたって感染する時はする、安全な場所など 今はどこにもない。


でも、名古屋の感染リスクは 東京より低い。


それに実家にいれば たとえ感染したとしても看てくれる人がいる。


Aは、俺を看ることはできる。でも、俺は…



「看てやることができないかもしれないんだぞ」


「そんなの感染した時に考えればいい」



感染した時って…



「それじゃあ、遅いんだって」


「なる前に手を打たないと」



だから 帰ってくれと諭すが…


Aは頷くことはなく、俺を見つめたまま。



「太輔、本当に想像できてる？私が傍にいないこと」


「自分の半身がいなくなるんだよ？わかってる？」



半身…



俺たちは、二人で一人…



「わかってるけど、感染し… 」


「わかってない、全然」



…



「ジャニーさん言ったよね？忘れたの？その言葉」


「忘れてない」



忘れるもんか…



「忘れてないのに、何でそんなこと言うの？」


「何で、２人で生きよう、頑張ろうって思えないのよ！」




― 『 二人でしっかり生きなさい 』 ―




「この前、ずっと一緒だって言ったじゃない」


「太輔の嘘つき！」



言った…



言ったけど…



「でも、私は、逃げない。ジャニーさんとの約束を守る」


「太輔を守るって決めたんだから」



！！



え… それ…



はっ！！




― 『 彼女の強さ わかるから 』 ―




玉…



「大体、これだけ感染対策してるのに なるって決めつけるのやめてよ」


「絶対にならないって 考えて行動してくれた方がよっぽどいい！」



俺の彼女は…



強い…



…



… の、かもしれない。



でも、社長…



俺…



「怖いんだ… お前を失うのが… 」


「私だって 怖い！！」



え…



「怖いに決まってるじゃない！！」


「でも、その怖さは 離れる怖さ」



離れる怖さ… ？



「もう 経験したくない怖さ… 」


「私は、二度経験した… 」



二度…



「太輔は 知らないのよ… その怖さを」


「突然かかってくるんだよ… 亡くなりましたって… 」



それ…



「たった数日 会わなかっただけで… 」


「本当に会えなくなったの！」



頑なに 帰らないと言った理由…




それは、本当の恐怖…




それを俺は、知らない。




でも、知っては、いけない恐怖だったんだ。

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