両手 ページ43
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息切れするくらい、走ってた。一週間以上眠った直後の全力疾走なんてするモンじゃねェ。今すぐやめてェくらいだ。でも、走らなきゃいけなかった。一刻も早く彼女に会いたかった。
「…ッ!何処に行ったんだよォ!」
まず駆け出したのは蝶屋敷。彼女の姿はなし。胡蝶に会って目を丸くしながら驚かれたが今は胡蝶に構ってる暇はない。胡蝶が体調を確認するという言葉を無視して俺は蝶屋敷を走って逃げ出した。
次にあの甘味屋に行った。彼女の姿はなし。後は一緒に行った定食屋、街、着物屋。全部まわったが何処にもいねェ。
「…もしかして、」
確証は無かったが可能性はあった。俺はその"とある場所"に目掛けて走り出したのだった。
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「ハァ、ハァ」
呼吸を戻しながら、俺は"目的地"の前に立っていた。その場所とは、初めて会ったあの屋敷。
「久しぶり、だなァ」
此処に来るのは。フラフラな身体を呼び起こしながら俺は屋敷の中に入った。変わらなかった、あの時と。俺が羅刹を斬った部屋も、彼女が十年間居た部屋も。何も変わらない。
「…居ねェ、か」
俺は溜息をつく。部屋に居ないって事は別の場所か、それともそもそも此処には来ていないのか。
「…屋根!」
俺は彼女の部屋に行き、窓を開ける。
「…俺出れねェんだった」
あの時と同じ大きさの窓。あの時とは違う、窓から出る事が出来ない。顔だけ出して上を向く。
「…Aッ!!!」
思わずそう叫んだ。
「……え、」
驚いた表情で、俺を見つめる彼女。彼女が、屋根の上に居た。逆立ちとかアホみてェな事はしてなくて。ただ屋根の上に座って俺の顔を見るなりすぐにその場から立ち上がって。
「…実弥ッ!!」
何処から出るんだその声量は、ってくらい大きな声で俺の名前を呼んで。窓から部屋に入って、俺の目の前に立って、どうしていいか分からなくて。彼女は口をパクパクさせてて、その姿が、その仕草が。どうしようもなく愛しくて、どうしようもなく綺麗で。
「…あ、実…え、…」
「A」
混乱してる彼女を安心させる様に俺は名前を呼んで。
「…あ、手紙が、…屋敷に…」
「おう、読んできた」
「えっ、」
A、Aって。
「あ…えっ、と…起きて…あの…心配、した」
「あァ…すまねェ。ずっとお前を放ったらかしにしてて」
「…あの、…何から、…えっと、」
A、A。
「なァ、A」
俺は彼女の両手を握る。
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うぇすとり?ぁー(プロフ) - 大ファンです!完結おめでとうございます!伏線回収も回想シーンも最高でした!自分はアザミちゃんが好きです。 (2021年10月3日 23時) (レス) @page48 id: 9275faa17d (このIDを非表示/違反報告)
ライアミ - めっちゃ泣けたヨ!布団がめちゃくちゃ濡れてんだけど……………ヤバいネ。感動をありがとアル!泣くことや笑うことはストレス発散になるからネ!終わりヨ! (2021年3月28日 1時) (レス) id: 2c479952a6 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。光華さん、いつも自分の作品にコメントしてくださって、本当にありがとうございます!鬼滅作品を思う存分書いた後、すぐに銀魂復帰しますので、約束です! (2021年1月25日 0時) (レス) id: 611a77bbbd (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 完結おめでとうございます!次も鬼滅ですか!銀魂も鬼滅も好きなので!! 銀魂作品更新応援してます!何時までも待ってますんで、虚無感ゆっくり消化してください (2021年1月24日 18時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)
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