人質の愛し方【不死川実弥】

表情 ページ19

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　───あぁ、初めて見る、表情(カオ)だ。
　羅刹は森林の中で座り込む彼女を見た瞬間、そう思った。
　最初に見るのは笑顔か？いや、いつも俺は彼女を小馬鹿にするから怒った顔かもしれない。どっちだろうか。だいぶ前にそんな事を考えている自分が居た。そんな待ち望んでた彼女の最初の表情(カオ)が


　────コレだ。


　泣き顔。そんな可愛いモンじゃない。そんな一言で済ますような表情(カオ)ではなかった。怒り、哀しみ、苦しみ、憎しみ…色々な感情が混ざり合って出来たような表情(カオ)だった。彼女の腕には酷く震えながらも、しっかりと握られていた小刀があった。
　大方その刀で自身を傷つけていたのだろう。常に巻いていた包帯は解(ほど)かれ、何度も刺した様な傷が沢山刻み込まれていた。どの傷も深く、吹き出す血液の量は多い。

｢あぁ、死にたかったのか｣

　彼は妙に納得した様子でそう言った。彼女は血と涙でぐちゃぐちゃになった顔で羅刹を見ていた。

｢あれ、違うのか？｣

　そんなに大量の血を吹き出して、死にたいと思ったらやったのではないのか。

｢……ん？｣

　羅刹は彼女の方に近づくと、少しの異変を感じ取った。鬼の焼けた匂いがする、と。今此処に居る鬼は俺のみ。しかし彼女の周りに、かなり新鮮な鬼が焼けた匂いがした。
　あぁ、成程。鬼を殺したのか、彼女は。羅刹は冷静にそう判断した。彼女が持っている小刀で自身を傷付け血を出し、その血液を鬼に飲ませ殺した。血を飲んだ鬼はみるみる身体から煙を出し、消えた。多分こういう流れであろう。
　賢い羅刹は持ち前の頭脳で今の状況を瞬時に把握した。つまり自分は、もしかしたらこの女に殺されるかもしれない。そうも考えていた。

　──────いや、待てよ

　羅刹は動きを止めた。血を出す為にこんな深く腕を刺すのか？そして、鬼を殺した後の彼女のこの狂った様な表情(カオ)は何だ？彼の脳内に複数の疑問が飛び交う。そんな感情移入をする様な女ではない。二年間、一方的にだが彼女と話していて分かる。
　彼女は、こんな奴じゃない。では何故彼女はこんな姿になっているのか？
　そう言えば、人質になったのは家族を護る為だって言っていたな
　全く喋らない彼女が唯一ちゃんと話してくれた事。だから鮮明に覚えていた。もしかしたら、いや、確証はない。けど可能性はかなり大きい。


｢─────家族が、"鬼"になったのか？｣


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