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名前 ページ7




 彼女は頷く事は出来た。何故なら俺が最初の屋敷で話しかけた時、首を横に振っていたから。それが彼女が出来る精一杯の意思表示だと思った。それなのに彼女は胡蝶に対して何も意思表示をしなかった。胡蝶の言う通り、俺から見ても彼女の表現は"生きた死人"という言葉が相応しかった。

「二人きりに…させてくれねェか?」
「…はい」

 胡蝶は「彼女の分の食事の用意をしてきます」と言って俺に背を向けた。するとふと思い出したかのように「お館様は、なんと?」と聞いた。

「彼女に時間があれば、二人で話がしたいと仰っていた」

 俺はそう伝えると「そうですか」とだけ言って胡蝶はまた背を向き、歩いて消えて行った。

「…」

 俺は扉の前で一人取り残されたかの様な気持ちで扉を見つめていた。此処を開ければ彼女がまた"あの表情"でいる。それを見たいとは思わなかった。少し間を開け、俺は扉を開けた。目の前に見える彼女は俺達が部屋を出ていく前と何も変わらず俯き自分の手を見つめていた。

「待たせたなァ」
「…」

 予想通り彼女は無反応だった。こちらを振り向く事もせずずっと俯いていた。俺は彼女のベッドへ近づき先程胡蝶が座っていた椅子に腰をかけた。

「俺は不死川実弥、っつーんだァ。…お前の名前を、教えてくれるかァ?」


───名前を覚えているかと聞いても何も意思表示をしなかった。胡蝶の言葉を思い出しながら、俺は彼女の方を向いて聞いた。彼女の視線は俺ではなく自分の手。

「…」

 すると、一瞬。いや一瞬ではない。静かに彼女の眼は俺の方へ向けた。俺は彼女と目があったのだった。

「…名前を、教えて欲しい」

 もう一度、ゆっくり。俺は彼女に聞こえるように名前を聞いた。

「俺は、不死川…実弥、だ」

 自分の名前をゆっくり言い、俺は彼女の目をじっと見つめた。彼女の薊色に透き通った眼は俺の眼を黙って見つめていた。俺は彼女の手を静かに握った。昔、ガキの頃お袋にこうやって貰えると落ち着いた記憶があったから。俺は彼女の手を優しく壊さないように握りしめ、自分の名前を何度も言った。そして「お前の名前を教えて欲しい」と何度も聞いた。

「…教えてくれるかァ?」

 最後に、もう一度。俺は彼女の眼を見つめながら言った。すると、彼女は小さく頷いた。俺は彼女の小さな意思表示を見逃す事はなかった。

「!…名前、は?」

 ゆっくりと、静かに。彼女は俺の目を見つめて、口をやっと開いた。


「……、A、」


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ほわ - はじめまして!読むの楽しいです!!もしかしてDECO*27さんの依存香炉の歌詞引用されてますか!?!? (2021年3月12日 10時) (レス) id: 67e3028028 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 芋けんぴさん» コメントありがとうございます。不死川さんのキャラ、書きやすそうで意外と書きにくい、掴みどころや考えてることが分からないような、、、そんな事をいつも考えながら書いてます笑作品を褒めて頂き嬉しい限りです!これからもこの作品をよろしくお願いいたします! (2021年1月18日 20時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。確かに…共通点多いですよね、、、その姿にいつの間にか惚れてしまったのかもしれません…!もうすぐ続編へと移行しますので次の作品もよろしくお願いいたします! (2021年1月18日 20時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
芋けんぴ(プロフ) - 初コメント失礼します。私も鬼滅だと不死川さん推しです。不死川さんのキャラを殺さず、丁寧に物語を紡いでいるところにとても惹かれました!今から続きを読ませていただきます!! (2021年1月18日 1時) (レス) id: e6e71631e0 (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - はわわわ 感激です! 鬼滅だったら不死川さんなのわかります!護る為に大切な人を突き放すところとか何か共通点があって土方さんと似てないけど似てるんですよね。(結局垢名前垢と同じ) 作品更新応援してます!  (2021年1月17日 17時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いくま | 作者ホームページ:http  
作成日時:2021年1月15日 15時

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