人質の育て方【不死川実弥】

幸福 ページ37

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｢やめろ｣
｢不死川さん…？｣

　俺は俯きながらそう言った。

｢…鬼殺隊に入隊してもらう、だァ？｣
｢…｣
｢そんな事、俺が絶対許さねェ｣
｢不死川さん…｣

　俺は胡蝶を睨んだ。別に胡蝶を責めている訳ではない。確かにそんな異能力を持っている奴は他にいない。鬼が嫌う稀血なんざ、聞いた事がない。だが。



｢アイツは…やっと外に出られたんだぞ｣
｢…｣
｢人質から解放されて。まだ首輪は繋がってるけど、いずれ俺が断ち切る。そしたらアイツは普通の女になれるんだよ。いや、ならなくちゃいけねェんだよ。普通に笑って、普通に洒落こんで、普通に街を歩いて甘味でも食ってりゃいいんだよ。無表情で、男用の着物を着て、喋れないのが現状だけど…ッ！でも、アイツには普通になって欲しいんだよ！！普通の幸せを知って欲しい…俺はその手助けがしたいだけなんだ、｣
｢不死川さん…すみません…貴方の言う通りです｣
｢…俺達鬼殺隊は何かしら鬼に恨みを持って入隊した。俺もお前も、他の隊士だって家族が鬼に喰われたとか、鬼に日常を壊されたとか、そういう理由ばかりだ。…じゃあ、アイツは？アイツは…人間に手を離され、人間に裏切られ、人間に首輪を付けられ、人間の為に人質になったんだぞ？
…アイツが言ってたんだ。本当に怖いのは死にたくても死ねねェ事だって。もし、…もし仮にだ。あの時俺がアイツの屋敷に訪れなくて、アイツを人質にしてた家族が喰われて、アイツも一緒に喰われたら…。アイツはそれを望んでいたんじゃないかって、…あの眼を見ると思っちまうんだよ｣
｢そんな事…言わないで下さい。貴方は鬼殺隊として任務を全(まっと)うした。そしてAさんを助けた。…貴方のおかげで、Aさんはあそこから脱出出来たんです｣





｢─────どうだかなァ｣

　彼女は"賞賛"を求めて"後悔"を得た。彼女が欲しかったものは"期待"、そして返ってきたものは"裏切り"。
　こんな現実、受け止めきれるか？俺がアイツだったら、どうしてた？俺は彼女の為に何が出来る？なァ、教えてくれよ。A、俺はどうしたらいいんだ。

｢…帰るわ｣
｢あ、手当が…｣
｢自分で出来るから構わねェ。こんな時間だ、まだAも寝てるだろ。アイツが起きる前にやっとくから大丈夫だ。…色々、教えてくれてありがとよ｣
｢……はい、｣

　そう言って俺は胡蝶と別れた。先程までは早く屋敷に戻りたいと思っていたのに、俺の足取りは重くなったのだった。


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