人質の育て方【不死川実弥】

出逢 ページ21

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「───────実弥、」
「…は、」

　俺はやっとの思いで声を出した。さっきから気が動転しすぎて状況をうまく呑み込むことが出来ないらしい。

「…………薊美、…A」
「…」

　ゆっくりと、彼女は夕焼けを見ながら言った。俺の右手は包帯を巻いた彼女の左手を優しく握っていた。

「…薊美、A…です。これから、………よろし、く…お…願い、…します」

　途切れ途切れの、小さな声がしっかりと俺の鼓膜に響いた。聞こえてる、ちゃんと聞こえてるぞ。俺はゆっくりと頷き、彼女の頭を撫でた。


「不死川、実弥だ。実弥でいい。…よろしくな、A」

　そう俺が言うと、さっきの笑顔とは打って変わってまたいつもの真顔に戻り、喋ることなくコクリとうなずいたのだった。やはり彼女は分からない。








｢…！｣
｢あ"ッ！｣

　木の上で上手に足の置き場を確保していた筈の彼女の身体が急に斜めに揺れた。強風のせいだ。コイツ、俺を片手で悠々に持ち上げれる癖に強風で倒れちまうのか。


｢A…ッ！｣

　そう言いながら木から綺麗に落ちる彼女の手を引っ張ろうとするが、残念ながら間に合わず繋がれた手を道ずれにするかのように彼女は俺まで木から落とした。
　俺は自分の身体を地面側にして彼女をすかさず自分の上に乗せるように庇って落ちた。

｢…ッ、てェ｣

　綺麗に着地とは言わず地面と衝突する様に俺達は落下。何してんだ俺達は。そう理性的になるが、何だかおかしくなって俺は笑ってしまった。

｢…｣

　笑う俺に？マークを浮かべた彼女は俺の顔を俺の胸板の上で眺めていた。

｢帰るか、屋敷に｣

　俺が彼女を抱きしめる形でそう言うと、彼女はコクリと頷き立ち上がった。立ち上がった時に彼女は俺に手を差し伸べ、俺はその手を掴んだ。俺も立ち上がり、俺の屋敷、風柱邸へと帰る。




──────その手は、繋がれたまま。



これが、風柱の俺と人質だった女の出会いだった。







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