意思 ページ16
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「しのぶ。彼女は最初、どんな容態だったか覚えているかな」
俺達の視線は一気に胡蝶へと向ける。胡蝶は静かに顔を上げ、「はい」と頷いた。
「Aさんは…見える場所は勿論、横腹や太もも、着物で隠れている場所でさえ青黒い痣だらけでした。
見るのも痛々しい程の痣の濃さで、左手の指二本は骨折していました。十分な食事を与えられていないのか、栄養失調で点滴を何本も打ちました」
彼女はピクリとも動かなかった。胡蝶にしては大きな声を出していて、絶対彼女の耳にも届いている筈なのに彼女の様子は何も変わらない。
「ありがとう、しのぶ。…しのぶが言った通り、Aの容態は良くなかった。そして帰る場所もない。十年間声を出すことを禁じられていた為、会話は勿論しようとしない。現に今、Aは襖の向こうで隠れているからね」
チラッと襖の方を見ながらお館様は言った。柱の皆も、言葉が出ず黙り込んだままだった。
「人質、と私なんかが軽々しく言って良いのか分からない。それに、Aの首に巻かれているモノを取ろうとするとそれを拒んでしまう。まだ、何かの鎖に繋がれているような感じだ」
お館様は俯いた。彼女の事を深く心配しているのだろう。
「だから皆は、出来ればAを気にかけてやって欲しい。私からのお願いだ。───聞いてくれるかい?」
そう聞くと俺達は声を合わせて「御意」、と答えた。
「ありがとう、Aは女性同士でもあるし懐いているしのぶの屋敷に置こうと思っている」
お館様はそう言った。胡蝶にも心を開いている彼女なら、最善策であろう。
「だから、しのぶ。Aの事は頼んだ…」
そうお館様が言っていたのに、俺達は目を見開いた。お館様本人も目を見開いていた。
──────彼女が、襖から出てきた。
それも、走って。タタタ、と小走りをしながらお館様を通り過ぎ、無表情でジャンプをして俺達柱の前に立った。
「オイ…」
柱の皆は目を見開き、俺自身も一体何やっているんだ、と言わんばかりにそう呟いたが、それは意図も簡単に塞がれた。お館様は驚いていた。彼女は、初めて自分の意思を行動で示したのだ。
そう、俺の手を掴んでいた。彼女は何を考えているのか分からない表情で俺の手を掴み、お館様の方へ顔を向けていた。
「…実弥が、良いのかい?」
お館様はいつもの表情を取り戻し、彼女に聞いていた。
「…」
彼女はゆっくりと、そして大きく頷いたのだった。
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ほわ - はじめまして!読むの楽しいです!!もしかしてDECO*27さんの依存香炉の歌詞引用されてますか!?!? (2021年3月12日 10時) (レス) id: 67e3028028 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 芋けんぴさん» コメントありがとうございます。不死川さんのキャラ、書きやすそうで意外と書きにくい、掴みどころや考えてることが分からないような、、、そんな事をいつも考えながら書いてます笑作品を褒めて頂き嬉しい限りです!これからもこの作品をよろしくお願いいたします! (2021年1月18日 20時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。確かに…共通点多いですよね、、、その姿にいつの間にか惚れてしまったのかもしれません…!もうすぐ続編へと移行しますので次の作品もよろしくお願いいたします! (2021年1月18日 20時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
芋けんぴ(プロフ) - 初コメント失礼します。私も鬼滅だと不死川さん推しです。不死川さんのキャラを殺さず、丁寧に物語を紡いでいるところにとても惹かれました!今から続きを読ませていただきます!! (2021年1月18日 1時) (レス) id: e6e71631e0 (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - はわわわ 感激です! 鬼滅だったら不死川さんなのわかります!護る為に大切な人を突き放すところとか何か共通点があって土方さんと似てないけど似てるんですよね。(結局垢名前垢と同じ) 作品更新応援してます! (2021年1月17日 17時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)
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