日々是平穏なり【土方十四郎】

自分 ページ28

·





「私の…私の平穏を邪魔しないでくれ…ッ」

　彼女は手を思いっきり握り締め、下唇を噛みながら震えていた。怒りの絶頂とやらを見てしまったのだ。いや見てしまったなんて他人事の様に言っているが彼女の逆鱗に触れてしまったのは紛れもないこの俺だ。購入した団子の包みを見ながら俺は溜息をついた。
　女は昔から苦手だ。何考えてんのか分からないし何故かすぐ泣くし勝手に寄って集って相手してやったらマヨネーズやら何やらで勝手に引かれてどっか行くし。俺からしたら女という生き物は厄介な存在に過ぎなかったのだ。
　それがまァどうしたもんか。俺は今一人の女の存在が頭から離れなくなっている。こんな事有り得るのか、俺自身未だに信じられない。が、だからといってこの感情をどうこうしたいと思ってはいない。
　俺は警察でアイツは元攘夷志士。切っても切れないこの関係性は天からの罰か何かか。それとも、昔どこかで付けてしまった深い古傷か。

「…どちらにせよ、たまったもんじゃねェな」

　ふう、と煙を吐き出して空を仰いだ。今日に限って何でこんなに晴天なんだよ。振られたばっかだぞ、俺ァ。尽(ことごと)く俺は神という存在に嫌われているらしい。上等だ、こっちだって嫌ってやる。
　吸えなくなった煙草を携帯用の灰皿に放り投げて屯所へと戻った。近藤さんに買ってきた甘味を渡し、その時に「近藤さんが思ってる様な関係じゃねェんだ、すまねェ」とだけ告げて近藤さんの反応も見ずに俺は部屋から出て行った。
　いや、そんな事をあえて言わなくても近藤さんは薄々気付いていたのかもしれない。


「……すまねェ、」


　 ───────何もかも、俺の責任だ。


·

黒鬼→←今更

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す