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今更 ページ27




「…ああ」

 土方十四郎という人間の背中が視界から消えた瞬間、今まで隠し逃げていた感情が一気に私の中で暴れ回った。もう逃げる場所も理由も無くなってしまった。それでも私は認めたくなかったのだ。今更この感情に気がついたところでどうこうなる問題ではないのだ。
 彼は警察、私は元犯罪者。どう間違っても関わる人生ではないのだ。彼は正義を貫き、私は汚点を増やしていく。私の血で濡れた汚い両手で、彼を引き止めろと。

「そんな事、出来る訳がない」

 出来てしまったとしても、私が苦しいだけだ。私の背後には、数で表すのが出来ないくらいの大量の死体が転がっている。全員、私と食を共にして刀を振り合ったのだ。
 たくさん、たくさん。たくさんの生命が私の手から簡単にこぼれ落ちた。こんなにも人間の生命はあっけなく尊いのだ。そんな中私は自分勝手に生き続けた。もがいて足掻いて、縋り付いて。見窄らしくなったこの人間は平穏だけを望んだのだ。
 こんな人間、どう対処する?どうにも出来ないだろう。私にだって手に負えない。

「…これで良かったんだ。これで、もう」

 この気持ちには蓋をして、何事もなかったかの様にいつもの日常を過ごせればそれで良い。むしろそれが良い。それで、良いのだ。それが、良いのだ。


·

 この時、私は余計な感情に振り回され続けていた。だから気が付かなかったのだ。昔の自分からしたら考えられない失態を、無意識のうちに犯してしまっていた。
 忘れていたのだ。自分の過去を、自分の通り名を。よく考えて見れば直ぐに分かる筈だ。たとえ昔の名前だとしても真選組の資料の中に私の名前はちゃんと刻んである。あの過酷な攘夷戦争を生き抜いた経歴も持っている。
 そう、私は平穏を望む人材ではなかったのだ。私はもう、あの深く黒く闇に溺れた空間の中で今でも呼吸をつづけている。誰も助けやしない、助けなんて呼べない。そんな資格なんてない。


 ─────黒い鬼は、今日も深い深海でひっそりと息を潜めるのだ。


·



「…助けて、土方さん」



 そんな呟きも、もはや届きやしない。ただの足掻き行為に過ぎなかった。




·

自分→←告白



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いくま(プロフ) - ふぉい!さん» 選ばれたのは綾〇ですよ((ニコッ (2018年7月24日 8時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
ふぉい! - 選ばれたのは綾鷹wwww (2018年7月2日 19時) (レス) id: 1633712eeb (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - マピトさん» コメントありがとうございます。一番だなんてとんでもないです。。。私もずっと土方さん推しなのでマピトさんの小説読んできます! (2018年4月5日 14時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
マピト - 今まで見てきた小説の中でこの小説が一番良いなと思いました。 私も土方オチの小説を書いているので見習いたいと思います! (2018年4月5日 11時) (レス) id: 9353c4256d (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - ユラさん» コメントありがとうございます。瞬時に思って頂き光栄です、笑しかし文才が皆無なのでこらから無茶苦茶展開になると思いますが、これからもよろしくお願い致します。 (2018年4月4日 12時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いくま | 作者ホームページ:http  
作成日時:2018年4月2日 20時

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