告白 ページ26
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「悪かったな。仕事の邪魔して」
「…あ、いや、…大丈夫」
何が大丈夫なのだろうか。自分で言っておきながら違和感を覚えた。早くこの場から立ち去りたい思い出いっぱいなのにまだこの場に居たいと言う矛盾な思いが永遠にループしていく。何なんだこの感情は。この感情の源が私と言う人間像を覆い尽くして溶かされそうだった。
逃げたい、この感情に名前をつけた瞬間、きっと私は私じゃなくなる。こんな感情は知っては行けないのだ。二十数年生きていながら出会わず逃げ切ってきたこの感情はようやく顔を表して私を襲う。
嫌だ、やめてくれ。私はソレを求めていない。決してソレを欲しがっているわけではない。さまざまな葛藤が脳裏で戦争を始めていく。目にかかるくらい伸びた前髪が私の視界を無理やり遮った。
「土方さん」
ああ、彼の名を呼んでしまう。まだ足りないなんて、もっと知りたいだなんて。嫌だ、嫌だ。私は前髪を右手で押さえながら彼の名を何度も呼び続けた。彼はそんな私の言葉を全てひとつ返事でちゃんと返した。何で返すんだよ、返さなくていいんだよ。思いっきり下唇を噛み締めた。お願いだ。頼む、頼むから。
「私の…私の平穏を邪魔しないでくれ…ッ」
溜め込んだ言葉が溢れ出てしまったのだ。土方さんはそのまま目を見開き、静かに呟いた。
「…俺の存在が、そんなに邪魔か」
その言葉を聞いた瞬間、ハッと我に返った。自分が放った言葉の嫌味さと彼が放った言葉の意外さに私はただただ黙る事しか出来なかったのだ。謝る事ですら、彼の悲しそうな表情を見た瞬間喉の奥に張り付いて出てこようとしてくれなかった。
ああ、取り返しのつかない事をしてしまった。
そう感じるのにそう時間はかからなかった。土方さんは団子が入った包みを片手に、私の頭を撫でた。その手は酷く冷たく凍っていた。まだ春先の暖かい季節なのに。この人の手は真冬の様に悴んでいる気がした。
「俺はアンタが望む平穏ってヤツに、いつの間にか夢中になっていたらしい」
「…な、」
「だが、もうこれ以上踏み込むのは辞めとくよ」
「…ひ、じかたさ…」
「邪魔したな」
────もう会うこたァねェから、安心しろ
そう告げて彼は甘味屋から消えていったのだった。私は追いかける事も出来ずにただ彼の背中を見つめていたのだった。
「………素直じゃ、ないなァ。…彼も、私も」
消え入りそうな声でやっとそう呟いたが、彼の耳に届く事は勿論なかったのだった。
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いくま(プロフ) - ふぉい!さん» 選ばれたのは綾〇ですよ((ニコッ (2018年7月24日 8時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
ふぉい! - 選ばれたのは綾鷹wwww (2018年7月2日 19時) (レス) id: 1633712eeb (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - マピトさん» コメントありがとうございます。一番だなんてとんでもないです。。。私もずっと土方さん推しなのでマピトさんの小説読んできます! (2018年4月5日 14時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
マピト - 今まで見てきた小説の中でこの小説が一番良いなと思いました。 私も土方オチの小説を書いているので見習いたいと思います! (2018年4月5日 11時) (レス) id: 9353c4256d (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - ユラさん» コメントありがとうございます。瞬時に思って頂き光栄です、笑しかし文才が皆無なのでこらから無茶苦茶展開になると思いますが、これからもよろしくお願い致します。 (2018年4月4日 12時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
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