煙草 ページ23
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あの出来事からAと会う事はそれっきり無くなった。当たり前と言えば当たり前なのだが、どうにも胸の奥に何かがつっかえて呼吸しづらい感情だった。いつもの様に屯所で大量の事務作業に取り掛かるも、どうにも集中力が続かないようで筆を置いて手を伸ばすのは煙草の箱。
ここ数日俺の様子はおかしい。変な見合い相手も消えて心残りはなくスッキリと今の日常に戻る筈出会ったのに増えるのは舌打ちの数と煙草の吸い殻。
分かっていた。何故俺が今イライラしているのかも何故俺がこんなにも集中が続かないのかも。全ての元凶は数日間だけ頼み込んだ謎に包まれたあの女のせいだ。平穏だけを望んで面倒事を限りなく毛嫌いするあの女の姿が頭から離れてくれない。
単純な話、このモヤモヤを解消する解決策はひとつ。彼女に会う事だった。会って話がしたい、ただそれだけの事だがそれが出来ないのだ。たとえ俺一人がアイツを見逃したとしてもアイツの経歴を辿れば一瞬にして攘夷志士という事が洗いざらい出てくる。過去を変えられる事は不可能だから。
「苛立ってるなァ」
そんな声が俺の鼓膜にはっきりと響いた。相手は声でわかる。近藤さんだった。俺が振り向くと近藤さんはニシシと笑いながら腕を組み、俺の目の前にある座布団に腰を下ろした。
「何か用か」
「いーや、何も。でも最近副長の様子がいつも以上に恐ろしい、との噂をちょいと小耳に挟んでな」
「どこの隊士だ、切腹させてやらァ」
苛立った様にライターに火をつけると近藤さんは「まあまあ」と俺を優しく宥めた。この人くらいだ、俺の扱いを知り尽くしている野郎は。
「何にイラつかせてんのかは知らねェが、ちょいと頼み事があってな」
「俺に?」
「来客用の菓子折りを買ってきて欲しいんだ」
「はァ?なんで俺が。ンなもん適当に山崎に行かせりゃいいだろうが」
「お前に頼んでんだよ、トシ」
近藤さんは「頼むよ!」と両手を合わせて俺にそう言った。この人がこんなに頼み込むなんざ珍しい。しかも菓子折り買ってこいだなんて。
「…分ァったよ。近くの甘味屋でいいか?」
「あ、いや。この前見合いで行った料亭の近くにある甘味屋がいいんだ」
「何でわざわざあそこまで」
「頼むよトシィ〜、そこの団子がいいんだよ〜」
「分ァったから気色悪ィ猫撫で声はやめろ」
青ざめながら俺は上着を羽織り屯所を出た。何で俺がこんな事を。
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「来客なんて来る予定ありやしたっけ?」
「いやァ?全く」
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いくま(プロフ) - ふぉい!さん» 選ばれたのは綾〇ですよ((ニコッ (2018年7月24日 8時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
ふぉい! - 選ばれたのは綾鷹wwww (2018年7月2日 19時) (レス) id: 1633712eeb (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - マピトさん» コメントありがとうございます。一番だなんてとんでもないです。。。私もずっと土方さん推しなのでマピトさんの小説読んできます! (2018年4月5日 14時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
マピト - 今まで見てきた小説の中でこの小説が一番良いなと思いました。 私も土方オチの小説を書いているので見習いたいと思います! (2018年4月5日 11時) (レス) id: 9353c4256d (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - ユラさん» コメントありがとうございます。瞬時に思って頂き光栄です、笑しかし文才が皆無なのでこらから無茶苦茶展開になると思いますが、これからもよろしくお願い致します。 (2018年4月4日 12時) (レス) id: 8c955fc7fb (このIDを非表示/違反報告)
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