i・ko・i [12/25更新] (ページ6)

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・・・ヤマダって！！

優人が私に気付いた瞬間に、後ろから"藤野！"と呼ばれてそちらを振り向く。

助かった。

櫻井『悪い、あと頼む』

「わかった。鍵、頂戴？」

櫻井『ん、助かる』

私に会議室の鍵を手渡し、"すみません、大変お待たせ致しました"と話し掛けた櫻井くんを無視して優人が私に声を掛けることは不可能で、安心して会議室に向かう。

大丈夫なはずだった。吹っ切ったはずだった。
でも、それは"はず"だっただけ。

優人の顔を見てあっさりと蘇る罵詈雑言を浴びせられた時の悲しさ、苦しさ、やるせなさ、悔しさ。

結婚を約束した相手に別れたくないって縋って貰えないオレは惨めだって。
婚約者が別の女性を妊娠させたって知らされた私よりあなたが惨めなワケないじゃないって思っても、そのセリフが衝撃的過ぎてその時は言葉を失った。

何を言っても事実は変わらないと飲み込んだのに。受け止めたのに。困らせたくなくて別れを受け入れたのに。

あの時の絶望がこんなにもあっさり蘇るなんて。

ケンカすることも諦めたの。
そうやって裏切られた私より自分が惨めだって、プライドが傷付いたって私を責める事が出来る優人に対し、自分の見る目の無さにも絶望した。

別れたくないって泣けばよかった？泣いたら何か変わった？マミちゃんのお腹の赤ちゃんが居なくなって何事もなかったかのように私達は幸せになれた？
なれないよね？
私が居ても、マミちゃんの頼みを断り切れなかったのに。その弱さが致命傷になって、私達は壊れたのに。

全部受け入れて別々に進むしか選択肢はなかったの。私は婚約者だったのに優人の一番にはなれなかった。

別れた事より、その時の感情が、言葉が、疲れた日々が全部蘇って、苦しくて堪らない。
優人のせいで生活が狂うのなんてもう嫌なのに。

.

零れる涙と崩れる体。

もう、これ以上私を振り回したり追い詰めたりしないで欲しいのに。

そんな時に会議室がノックされ、誰かが入ってきた。

崩れ落ちたまま声を押し殺す。お願い。私に気付かないで。

『藤野？あれ？居ねーの？』

櫻井くんだ。スルーなんて無理だ・・・

櫻井『ふじ、・・・おまえ大丈夫か！？』

櫻井くんが駆け寄って私の肩に手を置く。

櫻井『具合悪いのか？』

泣いてるのなんて見られたくない。しかも、就業中の会社で、個人的な理由で泣くなんて有り得ない。