85 ページ35
僕は決めたよ、A。
「イライさんには絶対、絶対に幸せになって欲しいんです」
「幸せだよ」
Aが瞬きをすると、目じりに溜め込んでいた涙が静かに頬へ流れていく。
両手で彼女の頬を優しく包み視線を合わせると、Aは急に林檎飴のように頬を赤く染めて僕から目を離した。
「あ、あの.......イライ、さん」
心臓がうるさかった。うるさくて、息をする度に胸が締め付けられて、苦しい。
彼女の綺麗な瞳には涙の膜が張られている。怖いのか、それとも緊張しているのか、Aの唇は微かに震えていた。
「僕は君に出会えて幸せだよ、A」
こつん、と互いの額がぶつかり合う。
睫毛が触れてしまいそうな距離だ。
額の次は鼻先、そして頬と、Aを確かめるように触れてから「イライさん」と短く僕の名前を呼んだ彼女の酸素を奪った。
そっと重なった唇からAの体温を感じる。
このまま彼女の体温と息に溺れて死んでもいい。そう思ってしまう程に心地が良かった。
まだ触れるだ。Aが怖がらない程度の、そんな優しいキスのつもりだった。
「.......これでわかってくれた？」
小さな顔を両手で包んだままAの潤んだ瞳を見つめる。涙の膜のせいでキラキラと光って見えるその世界の中に僕が映り込んでいた。
Aの顔が、先程よりみるみるうちに熱くなっていくのがわかる。白い肌を首まで桃色に染めて、恥ずかしそうに彼女は俯いた。
「.......私の意思、関係ないじゃないですか.......」
「えっ、あ、ああごめん...そう、だよね」
自分の行動の恥ずかしさに羞恥心が強まり、勝手に身体が火照る。
ばか、ばか。何やってるんだよ、こんなの、Aの事何も考えてないみたいじゃないか。
頭を抱えて悶える僕を見て、ふとAがほんの少しだけ微笑んだ。
「物腰も柔らかそうでお人好しすぎるのに、イライさんはいつもそう」
「A？」
まただ。記憶の底からなにか懐かしいような、夢のような.......。吸い付きたいような思い出を呼び起こさせる、あの香りがまた鼻を掠めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 178人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イキテル(プロフ) - 夜さん» こんなに前の作品にコメントありがとうございます！ 今はスランプ気味で中々お話が思うように書けていませんが、コメントを励みに頑張ります。また機会があればとこかでお会いしましょう！ (2022年1月31日 0時) (
レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 初めまして。この作品を久しぶりに読み返させて頂き、改めて素晴らしいなぁ、と感じました。更新されるのを今か今かと楽しみにしていた日々が懐かしいです。当時はコメントをする勇気がなく、1、2年越しにはなってしまいますが、完結おめでとうございます！ (2022年1月30日 3時) (レス) @page45 id: 1656e46327 (このIDを非表示/違反報告)
雪モチ(プロフ) - イライ大好きでなかなかない小説の中でこんなに面白い小説をただで読めるのが夢のようです！本当に面白かったです！更新お疲れさまでした、完結おめでとうございます！ (2021年9月3日 8時) (レス) id: 920125ce92 (このIDを非表示/違反報告)
イキテル(プロフ) - 桃花さん» 最後まで読んでいただきありがとうございました。またどこかでお会い出来れば幸いです。 (2020年12月11日 0時) (レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 転生ものが大好きなので、主様の素敵な小説に出会えてよかったです(*^▽^*)完結おめでとうございます、ありがとうございました！ (2020年12月10日 21時) (レス) id: 7b3a824d31 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イキテル | 作成日時：2020年8月6日 0時
