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シャワーを浴びて、松田に用意してもらった松倉のスウェットを持って医務部に戻る。静かに部屋に入ると、松倉は泣きながら嘔吐していた。
「剛くん」
「お、閑也おかえり。かいと、閑也来てくれたよ」
近づくとイヤーマフをしている松倉には聞こえない小さな声で、ずっとちびっ子モードやねん、と教えてくれた。
「松倉、気持ち悪いんだねー。しんどいね」
「っ、、まま、ごめ、なさ、」
「ママはおらんよ。大丈夫、大丈夫」
「ちゅーしゃ、、やめ、て、」
「松倉、ぎゅーってしていい?」
何も吐けていない口元を拭って、正面から松倉を抱きしめる。暫く身を固めていたが、何も言わずにそのまま眠ってしまった。
「よお寝かしたな」
「松倉、体調次第なんですけど、ぎゅーってされるのが好きみたいなんです。川島とか、宮近に求めることが多いんですけど、僕でもよかったみたいで、よかったです」
「愛が欲しいんやろな」
「そうですよね、、、宮近も今日は疲れてしまったみたいで。でも、川島と話してそのまま眠ったそうです」
「薬なしで寝れたんなら、よかったやん。川島が隣に居れば、起きても大丈夫やろ」
「そうですね。自然な睡眠がとれてよかったです」
「こちらはしんどそうやで。一旦戻って、報告送るな」
「ありがとうございます」
点滴を繋いでいる左手をベッドに固定して、タオルケットをかけ直す。明日一日休んで復活できるかどうか疑問だ。保護された時の詳細を見て、吉澤は言葉を失った。本人にその記憶は無いようだが、性的な暴行を受けた形跡もあったという。感覚過敏は入院をした時にはもう症状が出ており、なるべく音のない病室に入れられていた。自己抜去を何度も繰り返しており、目を離す際は拘束帯を使用していた。続けて、川島からの報告、そしてすぐに送られてきた剛からの報告に目を通す。とにかく今日は、何もかも忘れて深く眠ることができるように、予め点滴台に精神安定剤を用意する。薬がルートを通して入ることを、本人は嫌がるだろう。それでも、心と身体を守るために、吉澤は準備を整えた。少しでも口にできればと、七五三掛が松田が作ったというゼリーを届けてくれて、それを食べさせてから寝かせようと思い、目を開けるのを待った。
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作者名:イカ | 作成日時:2022年5月9日 16時