魅 た ら 負 け【マフィア松】 7

彼女は語る ページ44

クロになってる間の記憶が無いだなんで、嘘。
クロになってる間の記憶もちゃんとある。

だからクロが今まで何をしてたか、私知ってるよ



私の為に、私に近付く変な男の人達を殺してった事。

私の為に、危ないお仕事を引き受けていた事。

私の為に……私のお父さんとお母さんを殺した事。



私のお父さんとお母さんは普通の人達だった。
普通の家庭で育った私は、そのまま普通に育つんだと思ってた。


でもある日、お父さんは他の男の人達と同じように狂い、そうして強く私を欲しがった。

お母さんはそれが気に食わなくって、その腹いせか私に暴力を振るうようになった。



父からは求愛され、母からは暴力を振るわれて。

体も心も限界に達したある日、私は2人を包丁で殺しちゃったの。


勿論、わざもじゃないよ。
頭の中の何かがキレて、なりふり構わず振り回してたら刺さっちゃっただけなの。


私はショックだった。

とても親とは言えない親だったけれど
それでも私にとっては大切な家族だったから。


自分の手で自分のお父さんとお母さんを殺したのが、受け入れられなかった。

…ううん、受け入れたくなかった。



そうしたら私は意識が遠くなってって
気付いたら私は知らない場所にいた。



自分が一体今まで何をしていたのか、わからなかった。

わからなかったけれど、記憶は確かに頭の中にあった。


殺したお父さんとお母さんの処分をして、遠く離れた此処まで移動した記憶が。



誰かが私の中で言ったの。

『もうアナタを苦しめる人はいないよ』って。

『私が始末してあげたから、もう安心していいんだよ』って。



私、すごくズルいから。
その声……クロのその言葉に甘えた。

全部クロがやったんだって、自分に言い聞かせて、納得させたの。
そうやって、汚い記憶をクロに押し付けた。


それからもずっと、嫌な記憶は全部クロのせいにした。

クロがやったんだって。クロが体験した記憶だって。
嫌な事も全部クロに押し付けて、私は楽しい記憶だけを体験し続けた。



ごめんね……クロ。ごめんなさい。

ずっと騙してごめんなさい。
ずっと押し付けてごめんなさい。


クロは何も疑わない私の為に、何も知らない私の為に生まれたんだよね。

おバカな私に代わって疑ったり、怪しんだり、警戒して私を守ってくれてたのに。


私ったら、いっつも我儘ばかりでクロを困らせてたよね。



ごめんね……クロ。



もう、休んでいいんだよ。

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