サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ25)

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修道女…いや、元修道女のAは一度振り返る。

もう随分離れた故郷の、それでもシンボルの教会の十字架が見えて、彼女は物悲しげに微笑んだ。

「……さようなら、皆様。

神の御加護の元、どうかお幸せに」

そしてﾎﾟﾂﾘと呟くと、名残惜しそうに故郷を背にして、再び歩き出した。

その時だった。

「……！？」

街の方で、大きな音が聞こえたのは。

何かが弾けるような、燃えるような音。

再び振り返ると、先程まで平和だった街が一変。

黒い煙がもくもくと上がる街を見た。

黒い翼を持った悪魔が街の上空を飛んでいるのを見た。

街のあちこちからは悲鳴が聞こえ、Aは大いに狼狽えた。

「どうして…？
神が守護しているのに、悪魔が攻撃してくるだなんて……」

「＿＿＿当たり前だよ。
だってその神は此処にいるもの」

聞こえた声にまだ聞き覚えがあり、Aはﾊﾞｯと正面に向き直る。

するとそこには、街の守護神であるはずの神、アフロディが立っていた。

静かに微笑みを称えながら。

「神の守護がない街はただの街。
悪魔がやって来るのも当然だよ」

「なっ…な、何故貴方が此処にっ…！？」

Aは目を大きく見開いて、彼を見つめた。

街の方の悲鳴はだんだんと大きくなり、更には時々何かが爆ぜる音も混ざるようになった。

「何故？愚問だね。
此処に来たいから、此処にいるんじゃないか」

「だって、今まで貴方が街から出た事は一度も……
それに、貴方は街の守護神。それなのに街を離れるだなんて…！」

「良いじゃない、別に」

Aが問い掛けると、アフロディはｸｽｯと鳥の囀りの様に笑い、彼女の方へと歩み寄った。

Aは思わず足が竦んでしまい、その場から動く事が出来なかった。

「だって、街の人達はキミを除け者にしたんだろう？相応の報いじゃないか」

「そっ、れは……院内の人間だけで…」

「違わないよ、だって人間なんだもん」

アフロディは彼女の目の前に立つとそう言って、そっと手を伸ばす。

そして彼女の頬に指を置くと、優しく腫れた頬を撫でて「それに」と続けた。

「キミの祈る姿が見れなくなるのは、ちょっと悲しいからね」

そう告げると、アフロディはﾆｺﾘと笑った。

悲鳴と、爆発と、命が尽きる音が聞こえる中
アフロディはそれはそれは神々しい微笑みを称えていた。