サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ44)

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胸が苦しい【グラ】ページ44

グラ・フォムはアンドロイド。
サカマキ様がお造りになった、人に最も近い姿をしたアンドロイド。

しかし彼はアンドロイドであるので、人が持つ〝心〟というものを持ち合わせていないわけで。

戦闘に於ける様々な技術な武力、思考、その他術必要最低限のものしか持ち合わせておらず
彼等は人間の様に見えるが、やはり人間では無かった。

だから、驚いたんだ。

「最近、Aを見ると胸が苦しくなる」

そう、貴方に言われた時は。

朝、いつも通りに彼等をカプセルから起こして、正常に動くか検査をしていたら
突然、貴方は私に歩み寄ってそう訴えた。

表情は無から全く動かないからわかりづらいけど、きっと困ってるんだろう。
自分の胸元辺りに手を当てて、その赤色の瞳をやや伏せた。

彼の睫毛はアンドロイドのくせに長くて綺麗で、一瞬とても羨ましく思えた。

「……そう」

私は少し間を空けてから、そう淡々と答えて手元の検査項目の書かれた紙に目を通す。

今日も内容は変わらない。

量は結構あるけれど、こんなの毎日見てるから、もう全部覚えちゃった。

「どうすれば、この苦しさは無くなる？」

「…そうね、じゃあ1度メモリを消去しましょう」

無表情で困った様子の貴方に私は紙から目をそらさずにそう返すと、グラ・フォムは首を傾げた。

きっとどうすればいいのかわからないのだろう。
この手順も、もう何回も行ったのだけれどね。

「カプセルに戻って。
そうすればあとはこっちで済ませるから」

「…」

何度目かわからない同じ説明を口にすると、貴方は微かに目を丸く見張り、そして自分が今出て来たカプセルの方を見る。

そして少しの間、黙り込んだままぼんやり見ていたけれど、入る様子は無くって。

それどころか貴方はまた私の方を向いて、おもむろに両手を差し出した。

「………早く入りなさい。
検査はまだ全員分終わってないの」

「…」

だけど私はその手に触れずにそう返すと、貴方は何処か物悲しそうに引っ込めてから、私に背を向けた。

「……さようなら」

最後に背を向けたまま貴方はそう言うと、大人しくカプセルの中に入った。

カプセルの蓋は再び閉められ、貴方はゆっくりと目を閉じる。

……アンドロイドに感情は要らない。
あった所で戦闘の妨げになるだけだ。

恋心なんて、特にそう。

アンドロイドには最も必要の無い感情。

貴方はどうしてそれを、何度言っても何度消してもわからないの。