辻 804 ページ13
あの後、暫くして俺は何とか館を後にした。
倉間を説得するのにえらく時間が掛かってしまったが……南沢もこちらの事情を理解してくれたのか、俺の味方をしてくれて。最終的に倉間が折れる形で俺がこの館から出るのを許してくれた。
とはいえ、また近い内に戻って来るよう言われたが……次こうやってこちらの世界に戻るのはいつになるだろうか。
まぁ、俺がいない間は南沢がこの館にいてくれるらしいから少し安心だ。流石にあんなだだっ広い館に倉間と瞬木の弟2人と優一さんだけなんて寂しいからな。1人でも多い方がいいだろう。
……あと、ポトムリはどうしようか。
結局、最後までポトムリは出て来る気配を見せず、アズマのままお見送りされてしまった。
アズマは俺から離されるとまたミィミィ鳴いていた。まるで俺を引き留めようとしているかのように前足を伸ばしながら、鳴いていた。
正直言うと連れて行きたいが、流石に猫を連れて行くのは危険過ぎるだろうし、イドラだって了承しないだろう。そもそも、イドラにアズマの存在はまだ認知されていないはずだし……
……ポトムリの件もあるし、また近い内に会いに行けないかイドラに話してみよう。
「やっと来たか、ピンク頭」
館を出て少し進むと、木の影に隠れるようにしてザナークが立っていた。
ヤツはわざとらしく溜息を吐きながら気だるそうに動き出すと、バイクに跨り有無を言わさず無言で『乗れ』と俺を見遣る。
一応「ごめん」と謝ったが、返ってきたのは「いいから乗れ」とだけで。結構話し込んでしまっていたから、それで待ちくたびれてしまったのかと考えると、この次の事も言いづらかった。
「……その、次はサーカステント……いいか？」
「はァ？まだこっちに留まるつもりなのか？」
「い、イドラから頼まれたんだ…！団員達の様子を見に行ってくれって」
「……ッチ」
しかし頼まれたのだから言わないわけにもいかない。
ダメ元でザナークに頼んでみると、ザナークは舌打ちをして険しい顔をするが、否定はしなかった。
それどころか「…わかった」と意外にも素直に応えるので思わず目を見張る。てっきり断られるかと思ったのだが……
「いいからさっさと乗れ。俺様の気が変わらない内に」
「あ…わ、わかった…！」
ぽかんとしていたら眉間に皺を寄せたザナークにそう急かされ、俺は急いで乗り物に乗り込んだ。
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