辻 717 ページ20
「……どういう事です？アナタ、左手で触れないと能力は発動しないはずじゃ？」
少女の目付きが変わる。
きっと彼女も想定していなかった事なのだろう。
態度も一変し、冷静にイドラを見据える。
イドラは左半身を引き摺るようにして少しずつ、少しずつ少女の方へと歩みを進めた。
その間、ずっと苦しそうにしていた。
今まで見た事ない表情で、黒い部分は尚も侵食していた。
「うぅ……ゥぅう……ウ、ぐ……』
「おかしいですね。こんな事は報告されていないのですが。アナタ、何なんですか？」
「う、ァ……グッ……ぅ』
「もしかして……
苦しそうな呻き声と人間ではない声が混ざったような声がイドラの口から絞り出される。
ｽﾞﾘｽﾞﾘとゆっくり、しかし確実に少女に近付くが
対して少女は微動だにせず、じっとイドラを睨むように見遣る。
おもむろに、イドラが左手をゆっくりと掲げる。
その動作はまるで何百キロものお守りでも付いているんじゃないかってくらいゆっくりと重々しく、その手は震えていた。
途端に少女は弾かれるように後ろに退き、2丁の銃をボールの形に戻した。
そうしてボタンの1つに触れると、無機質な声が響く。
『タイムワープ モード』
「一先ず撤退して、この事を御報告しませんと」
瞬間、少女を中心に眩い光が放たれ、俺もザナークも思わず目が眩んだ。
少しするとすぐ光は無くなり
そうして、やはり少女もいなくなっていた。
ああ、逃げられたか……
いや、でも正直助かった。
こんな痺れた状態じゃ満足に戦えないからな。
イドラがいなかったら、俺達は……
「…！イドラ……！」
光が収まると俺はイドラがいた方を見遣る。
すると彼女はその場に崩れ、荒い息をしていた。
駆け寄りたい気持ちだが、体がまだ痺れていて、上手く動かせない。
それでも何とか彼女の元に行こうと腕を伸ばしたその時「待て」と忌々しい声に止められてしまう。
「今はまだ近付かない方がいい」
「お前……何か、知ってるのか？」
「いいや、知らない。だが見てみろ、アレを」
「……？」
ザナークはイドラから目を離さないでそう言うので
言われて俺は再びイドラの方を見遣る。
地面に膝をつくイドラ。
両手で何とか体を支え、苦しそうに呼吸を繰り返す。
そんな彼女の左手をよく見ると
その手を中心に地面が少しずつ崩れて行くのを見てしまった。
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