お話なのです ページ4
「あ……あの…えっと、ヒロトさん?」
内心ビクビクしながらようやく茶の間に辿り着き
私は障子の前で声を掛ける。
すると中から『入っていいよ』といつも通りの優しい声。
緊張が一瞬にして無くなり、私は思わず胸を撫で下ろす。
い、いや……ヒロトさんの声を聞いただけで安心するのはまだ早いのです。
あの人は優しい声で怖い事を平然と言える人なんですから。
そう自分に言い聞かせ、緩みかけた気を引き締め直す。
一応「失礼します」と畏まってそっと襖を引くと
そこにはヒロトさんが、畳の上で綺麗な正座をして待っていました。
「おかえり、A。ごめんね、急に呼び出して」
「い、いえ……構いませんよ。
ヒロトさんこそ、珍しいですね。こんな時間に帰って来るなんて」
「ちょっと、Aと話さなきゃならない事があって…ね。一旦帰って来たんだ」
「話さなきゃ…ならない事?」
オウムのように私は返すと、途端にヒロトさんの表情が改まって、真剣な顔になる。
「とりあえず座って」と言われるがまま、私は後ろ手で襖を閉めてからヒロトさんの向かいに正座する。
でも内心私は落ち着かなくて、ずっとソワソワしてました。
当たり前です。
わざわざこんな所に呼び出されて、そんな真剣な顔されて。怖いなんて言葉じゃ足りません。
一体何の話をする気なのかわかりませんが……今すぐこの部屋から逃げ出したい。
でもお話の内容が気になるのも事実。
「なんですか、それ」となるべく感情を表に出さないよう言ってみましたが、自分でもわかるぐらい声が震えておりました。
というか足がもう辛いんですが。
言われるがまま流れで正座なんてしましたが、もう足が痺れて来たんですが。辛いんですが。
ヒロトさんは辛くないんでしょうか。
そもそもヒロトさんはいつ頃から此処に?
私が来た時にはもう正座して待ってましたよね?
つまり、私より長い時間正座してますよね?辛くないんですかね?
……なんて、緊張を通り越して恐怖すら感じている自分を、足の痺れで誤魔化しながらヒロトさんの言葉を待つ。
ヒロトさんは真っ直ぐ私を見つめ、「あのね、」と口を開いた。
でも次の言葉が言いづらいのか、なかなか出て来ない。
しかも悲しそうに目を伏せてしまい、私は首を傾げた。
「……あのね、A。
……________」
「…………………………………………え、」
ようやく放たれたヒロトさんの言葉に
私の思考が凍りついた。
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*IJu*(プロフ) - 白銀さん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて嬉しいです^^更新頑張りますー! (2021年11月27日 23時) (レス) id: c0312d3eb1 (このIDを非表示/違反報告)
白銀 - めっちゃ好きです。頑張ってください! (2021年11月25日 0時) (レス) @page4 id: e22066a027 (このIDを非表示/違反報告)
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