リボンの檻 3 【真名部陣一郎】 (ページ28)

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△リボンが123こ▽ ページ28

「……」

恐る恐る、と言った様子で僅かに開かれたその扉の隙間から濁った瞳が覗いた。

まるでリビングの中の様子を確認しているようだった。

すぐにその瞳と目が合い、でも真名部は彼女が入って来るまで声をかけるのをｸﾞｯと我慢する。

そのまま目をそらさずに真名部は彼女を見つめていると、Aは更に扉を開いてその姿を現した。

「………………まなべ、まだいたの？」

酷く、疲れているようだった。

泣いていたのか目の下は腫れ、寝ていないのかクマまで出来ていて。

声もいつもより低く、元気の無い声で
扉を開き切ると今にも倒れそうな足取りで1歩部屋の中に足を踏み入れた。

「当たり前じゃないですか…！
それより大丈夫なんですか？顔色が随分も悪いですが…もしかして、眠っていないんですか？」

「…まなべ、」

「お腹も空いたでしょう…？丁度食べようと思っていた所なんです！一緒に食べましょう！
……ああ、でも食べたくない気分なら別に食べなくても……」

「真名部、」

真名部は彼女が部屋に入って来ると同時に駆け寄ると、心配そうな表情をしながら話し掛ける。

朝食を食べた直後だったが、彼女が食べてくれるよう気を使ってそう言って、彼は彼女の手を引きテーブルまで行こうとしたが、その手をAが引き留めた。

真名部は振り返る。
彼女の顔にいつもの笑顔は無かった。

寧ろ大人っぽいような、正気を取り戻したような。
僅かに光の差した濁った瞳で真名部を見遣る。

「真名部は私の事、好き？」

「ど…どうしたんですか、急に…？」

「それとも…嫌い？」

「……」

胸騒ぎがした。

突拍子もない質問に真名部は困惑すると共に
何故だが胸の奥がざわついた。

小首を傾げて視線を僅かに落とすAに真名部は向き直ると、彼女の手を握る。

もう片方のてでメガネのブリッジに触れ、真名部は彼女から視線をそらすと、彼女の質問に答えた。

「……前にも言いましたが、僕は…別に、嫌いではないですよ。アナタの事」

「本当に？」

「ええ……本当です」

「私が人殺しでも、真名部は私の事、まだ嫌いじゃない？」

「っ……？！」

まさか彼女の口から飛び出す事の無いと思っていた言葉が飛び出し、真名部は大いに狼狽えた。

思わず彼女の方に視線を戻すと
Aはいつの間にか、空いていた片手に血塗れのフライパンを手にしていた。