リボンの檻 3 【真名部陣一郎】 (ページ26)

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▲リボンが121こ▼ ページ26

「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう」

一方、その頃Aは上の階で膝に顔を埋めたまま、何やらﾌﾞﾂﾌﾞﾂと呟いていた。

その瞳は警備員を殴った時のようにｶｯと見開かれ
ｷﾞｭｳｯと膝を抱える腕に力が込もる。

この時、彼女もまた苦悩していた。

彼女なりに考えて、自身の記憶(・・)に苦しんでいた。

「どうしよう、このままじゃまなべに〝嫌われ〟ちゃう。そうしたらどうしよう。どうなるの。教えて、知らない、イヤだ、どうしよう真名部が出てっちゃう」

その思考は滅茶苦茶だった。

まるで何かを抑えつけているかのように、仕切りに彼女は言葉を口にする。

その声音もいつもの子供のような無邪気な高い声ではなく、所々低く、年相応の女性の声で呟いていた。

じっとりと背中に汗が滲む。
ｶﾀｶﾀと震える四肢を制するように更に強く膝を抱えた。

脳裏に浮かぶ母の顔。
Aはｷﾞﾘﾘと歯を食い縛る。

とてもじゃないがその顔は慕っている母に向けていいものではなかった。

「ママのせいだ、ママが帰って来ないから。ママが悪いママのせい。なんでなんでもママのせいにするの？ママは悪くない。だからママにも怒られるんだよ。でもママのせい。帰って来ないでママ。ママはもういらない。嫌だ1人にしないで」

またﾌﾞﾂﾌﾞﾂとより一層低く呟くA。

所々矛盾する思いにAは自分の頭を抑えてつけ、その場に倒れた。

その時、彼女の背中から鈍い音がした。

彼女が隠し持っていたフライパンだ。
底の血はもう乾いて、着ていた母親の服にも媚びり付いていた。

おもむろに、Aはソレを掴む。
ﾍﾞﾘﾍﾞﾘと血でくっ付いた服から剥がし、そうしてじっと真っ赤になったフライパンを見つめた。

だがその付着した血の量が明らかに多かった。

1人を殴った程度では付く事のない程の血の量。
時間が経って赤黒く変色し、底いっぱいに広がっていた。

「………ごめんなさい、ママ………」

どれくらい時間が経っただろう。

不意にAはそのフライパンを愛おしそうに抱き締めると、一筋の涙を流した。