リボンの檻 3 【真名部陣一郎】 (ページ17)

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△リボンが112こ▽ ページ17

「………まなべ？」

不意に、正面から声を掛けられた。

真名部はゆっくり顔を上げると、そこには珍しく心配そうな顔をしたAがソファの前に膝立ちになって、真名部を見上げていた。

「っ…？！」

真名部は思わず身を捩って、彼女から距離を置こうとしてしまう。

勿論、ソファの背もたれがあったので殆ど離れられなかったが、Aは彼が逃げる意志を見せた事に傷付いたのか、視線を落として項垂れた。

だがすぐ彼女は弱々しい笑みを浮かべると
顔を上げて「ごめんね」と肩を竦めた。

「まなべ、まだ私の事、怖いんでしょ？」

「………」

「大丈夫、怒らないよ。仕方の無い事だから。

………私、暫く2階にいるからね。
私が怖くなくなったら、呼びに来て。
それまではなるべく、下に降りないようにするから」

悲しそうに笑いながらも彼女はそう言うと、おもむろに立ち上がって踵を返す。

また訪れる無防備な時間。

しかも今度は真名部が呼びに来るまで下に降りて来ないと来た。

こんな状態でそんな事言われたら、出て行くに決まってる。
あんな場面見せられた後でそんな事言われたら、誰だって。

実際、真名部もこの時一瞬だけ逃げる意思が浮上した。
このままじゃ自分もああなってしまうのでは、と考えたら当然の思考だった。

「……あの、」

そのまま部屋を出ようとしたので、真名部は思わず呼び止めた。

そうしたらAは振り返って「なぁに？」と首を傾げた。

真名部は少しの間、言い淀む。
だが結局を口を開いて、真名部は彼女に尋ねてしまった。

「………そんな事したら、僕が逃げるとは思わないんですか？」

今までも何度か同じような事があった。

初めて出掛けた日の玄関前とか、真名部1人を残して部屋を出て行った時とか。

特にデパート内で真名部を1人にするのには驚いた。
まさか誘拐した人間を外で放置するだなんて。

逆に何か企んでいたんじゃないかとも思える。

真名部は不思議だった。
どうしてそこまで真名部を無防備に出来るのか。

そんな事して本当に逃げられれば、警察に通報されてしまうとは思わなかったのか？

捕まって法の裁きを受けるとは思わなかったのか？

単純に彼女の幼稚な思考では真名部を見張る事よりも好奇心が勝ったり、素直に行動しているだけなのかもしれない。

だがそれにしたって真名部には、不自然な程無防備な時間を与えられているように感じた。